41〜44話


第41話 「ヨンセン懐妊」

自ら実験台となって食中毒にかかったチェ女官長。その治療をチャングムが担当することになり、チャングムに医術を悪用し恨みを晴らす絶好の機会が訪れる。オ・ギョモは、手柄を立てたとはいえ半月以上も報告を怠ったチョンホの責任を追及。チョンホは免職を余儀なくされる。そのころ内医院(ネイウォン)では、チャングムとヨリが対立。チャングムに封鎖令を伝えたとあくまで主張するヨリ。シンビはチョドンを使ってひそかに真偽を確かめる。それを知ったヨリは、みなの前で自ら異動を申し出る。特別尚宮(とくべつサングン)のヨンセンが懐妊。淑媛(スグォン)の位を授かったヨンセンはミン尚宮(サングン)とチャンイを自分付の女官に命じる。専従の医女にはヨリが配属されることに。ヨンセンは自分の母親が出産を機に体調を崩していたことから、出産に不安を抱いていた。

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チェ尚宮に施鍼しようとするチャングムを丁度部屋に入ってきたクミョンが制止する。「何をしている!出てお行き。お前ではなく他の医女をおよこし!」
だがチャングムは、微かに笑みすら浮かべてクミョンに問いかけるのだった。「何を怖れて私の治療を拒否なさるのですか?」

そのチャングムの言葉が、病を得て弱っていたチェ尚宮の強烈な意志を再び蘇らせる。「お待ち。治療しなさい。チャングムの言う通り、怖れなければならないことなど何もない」促されるまま、再び鍼を手にするチャングム。

 

チャングムは一旦手首に施鍼しようとするが、途中でその手を止め、改めてチェ尚宮の首筋へと鍼を向ける。そして一瞬、チャングムの瞳は暗殺者のような冷ややかな光を帯びる。無実の罪で宮中を追われ、チェ・パンスルの手下の手で殺された母。やはり無実の罪を着せられ厳しい拷問を受けた末に死んでいったハン尚宮。チャングムの脳裏に彼女たちの悲惨な死がまざまざと蘇る。だが、チャングムの指は震え、鍼を刺すことができない。
しばしの逡巡の末、チャングムは再びチェ尚宮の手首を取り、施鍼を終える。
「あんたには、医術を体得すること、復讐を果たすこと、どちらも成し遂げてもらいたいの」かつて済州島でチャンドクに言われた言葉を思い出すチャングム。「ハン尚宮様、どちらも成し遂げてみせます。でも、料理を悪用し、権力を手にした者たちのように、私が医術を悪用して恨みを果たすことのないように、正々堂々と勝てるように見守っていて下さい」
何故チャングムがチェ尚宮を治療したのか訝しむクミョンに、チェ尚宮は答えて言う。「私には手出しできまい。私に何かあれば、あの子も無事ではいられぬ。そんな愚かな真似はせぬ」
チャングムを救おうとしたミン・ジョンホの行動は、彼の失脚を望む者たちにとってこの上ない糾弾材料であった。左賛成も彼を庇いきれないまま、ミン・ジョンホの罷免が決定する。
そのことトックの妻から知らされたチャンドクは怒りに身を震わせる。
官職を失ったミン・ジョンホはカン・ドックを伴って再び疫病の村を訪れる。彼らは健康を取り戻してはいたが、彼らの生活は以前にも増して苦しくなってしまったのだ。元々傷んだ野菜を食べるしかない程の食糧難に見舞われていた上、今回の騒ぎで家まで焼かれてしまったのだ。それなのに官衙からは救恤米(深刻な食料難に際し、一旦租税として納められた米を返還する制度)の支給すらないという。村人は口々にその窮状をミン・ジョンホに訴えるが、罷免されたミン・ジョンホには救恤米を出すように命じる権限もない。彼が罷免されたことを知らないカン・ドックは「旦那に頼めば大丈夫だ」と安請け合いしてしまうのだが・・・。
計略は失敗したものの、ミン・ジョンホが罷免されたことをユン・マッケから知らされ、一安心するチェ・パンスル。後はチャングムを恵民署に送ってしまえば全てが終わる。
だが、チェ・パンスルの思いとは裏腹に、王の元に引退した高官パク・スボクからの上訴が届く。彼は見捨てられた村で民を救い疫病の原因を調べたミン・ジョンホが罷免されたことを悲憤して訴え出たのである。ミン・ジョンホは罷免された後も村で民を救うために尽力しているという。訴状を読んだ王は、軍律を乱したというだけの理由でミン・ジョンホを罷免したオ・ギョモの判断に激怒し、直ちにミン・ジョンホを呼び戻すよう命じる。・・・オ・ギョモは急速に王の信頼を失いつつあった。
実はパク・スボクの上訴の陰にはチャンドクの功績があった。以前からパク・スボクの母親を診察していた彼女が、ミン・ジョンホのことを伝えたのである。村は救われ、ミン・ジョンホも復職することができた。
村を去るミン・ジョンホに、村人は彼とチャングムにお礼をしたいと、皆で出し合った人参を渡そうとする。だが、ミン・ジョンホは病後の体力回復にそれを使って欲しいと受け取らず、村人が用意した袋だけを持ち帰るのだった。
再び内医院で働くことを許されたとはいえ、チャングムが集合時間までに村に戻らなかった理由はまだ明らかにされていない。だが、チャングムとヨリの言い分は平行線を辿り、一向に埒が明かない。
シンビは一計を案じ、チョドンからヨリに鎌をかけさせる。チャングムに薬材を取りに行くよう命じた会話の断片を耳にした、とヨリに告げるチョドン。ヨリはそれを聞いて血相を変え、「チャングムを追い出さなければ内医院にいられなくなる」とチョドンを脅す。
シンビは嫌がるチョドンを連れて、このことを御医女に報告しようとするのだが、ヨリはシンビよりも一枚上手だった。シンビたちが来る前に、自分がチョドンから脅迫されたと御医女に報告していたのである。本来ならばチャングムとヨリのどちらが嘘をついているのか明らかにすべき場面だが、チョン・ユンスは巧みに問題の矛先を変え、チャングムが来る以前にはこのような問題は起こったことがないという理由で、彼女を恵民署に送ろうとする。
宮中を出て恵民署に向かう途中、チャングムはミン・ジョンホとチョン・ウンベクに出会い事情を話す。その話を聞いたミン・ジョンホは「恵民署に行く必要はない」と彼女に告げ、彼女を連れて内医院に向かう。
戻ってきたチャングムにピソンが冷たく告げる。「恵民署に言って反省し、思いやりを養えと言われたでしょう!」「チャングムさんにその必要はありません」ミン・ジョンホは今回の功績により、承政院の同副承旨(トンブスンジ)に昇進し、内医院の副提調(プチェジョ)を兼任することになったのだ。言葉を失うチョン・ユンスたち。ミン・ジョンホは一同に、チャングムはその献身的な行動により疫病の村を救い、村人たちからも深く感謝されていることを話す。「思いやりなら人一倍持っている!」
村人から預かった人参の袋をチャングムに渡し、彼女の行動から真に民を思う心を学んだと礼を言うミン・ジョンホ。だが、チャングムは医女の配置にまで関与してしまっては彼の立場が悪くなるのではないかと心配する。
ミン・ジョンホが内医院副提調に就任したことをヨリから聞かされ、チェ尚宮とクミョンは顔色を変える。上にミン・ジョンホがいたのでは、チョン・ユンスも動きにくくなる。チェ尚宮は敢えて失敗したヨリに薬材廛の権利を与え、完全に配下の者として働くよう命じる。チャングムを宮中から除くためには、ヨリという手駒を無駄にはできない。
帰宅したチャングムは、チャンドクにミン・ジョンホを救ってくれた礼を述べ、診療の手伝いを始める。そして、彼女はトック夫妻から嬉しい知らせを聞く。ヨンセンが懐妊したというのだ。
ヨンセンを軽視していたお付きの内人たちも、彼女の立場が大きく変わるのに合わせて態度を変えざるを得なかった。今までの非礼を必死に詫びる彼女たちに戸惑うヨンセン。
だが、ミン尚宮はそんな内人たちを叱りつける。悪い時にこそ助け、良い時には諫めることも必要なのに、その逆を行う彼女たちの心性を咎めるミン尚宮。その常に似合わぬ威厳ある姿にヨンセンとチャンイも驚きを隠せない。「ハン尚宮の真似がしてみたかった」とおどけるミン尚宮ではあったが、彼女もまたチョン尚宮・ハン尚宮の薫陶を得て育ってきた女官だったのだ。
態度を変えたのは世話係の女官だけではなかった。ヨンノは提調尚宮からの祝いの言葉と品を預かってヨンセンの部屋に訪れるついでに、自分からの祝い品も持参して来ていた。憤慨するミン尚宮とチャンイ。だが、ヨンセンは素直にそれを受け取り、至密と焼厨房にミン尚宮とチャンイを付けて欲しいとの伝言を提調尚宮に届けさせる。あからさまにがっかりした顔を見せることもできず、ヨンノは強張った笑みを浮かべて退出する。
チャングムは、ヨンセンに淑媛(スグォン)の位を与えるよう、中殿から提調尚宮に指示が出されるところに偶然居合わせる。そのことをヨンセンに伝え、正式な礼を以て祝辞を述べるチャングム。
中殿の命令により、クミョンはヨンセンの食事を担当させられる。だが、ヨンセンは吐き気を催して食べられないと、クミョンに料理の作り直しを命じる。今や淑媛となったヨンセンにクミョンは逆らうことができず、詫びを述べて料理を下げる。だが、クミョンが立ち去った後でヨンセンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。ヨンセンのちょっとした仕返しだったのだ。
作り直した料理もヨンセンは食べられないと言って拒絶する。「食べたいのに、料理を見ると吐き気がする。チョン尚宮様のお料理なら、きっとこんなことにはならないわ。そちの料理には何かが足りない気がする。そうは思わないか?次からは足りない何かを探して入れておくれ」
クミョンとチェ尚宮にとってこれは耐え難い屈辱だった。ましてチャングムが同席している場所でのことである。ミン尚宮から最高尚宮の体面も考えるべきだと諫められ、意地悪を止めようとするヨンセンだったが、三度目の料理では本当に悪阻が始まってしまって食べることができない。
ヨンセンのために祝宴が催され、各部署の尚宮たちが祝辞を述べる。そこには二人の「チェ尚宮」の姿もあった。「提調尚宮から祝ってもらうとは、人生とはわからぬもの。チョン尚宮様もきっとお喜びになっているでしょう」オ・ギョモの発言力が弱まっている上に、チョン尚宮のことでチェ一族に恨みを持つヨンセンが懐妊したという事実は、チェ一族にとって致命的な事態を招きかねなかった。この上、ヨンセンが男の子を産もうものなら・・・。何か手を打たねばならなかった。
チャングムたちが見習い期間を終え、使喚医女から正式の医女となったことを受け、医女たちの再配置が行われる。チャングムはヨンセンを担当したかったのだが、中殿の担当を命じられる。そして、ヨンセンの担当にはヨリが選ばれる。無論、ヨリはこの人選を利用して、周囲の同情を買うことを忘れない。一方チャングムは、明らかに彼女が重用された形になっているため、抗議をする訳にも行かない。
担当になれなかったことを伝えようとヨンセンの部屋を訪ねるチャングム。だが、そこには一足先にヨリがやって来ていた。抜け目なくチャングムを牽制するヨリ。「副提調様から淑媛様まで、顔が広いのね。そんなに後ろ盾があるとは知らず、逆らったのが馬鹿だった。もう私の負けを認めるわ。だからもう構わないで。それとも淑媛様にいいつけてここからも私を追い出す?そんなに私の腕が信じられない?」
言うまでもなくこの人選はチェ尚宮の差し金だった。一見、熱心にヨンセンの体調を気遣っているかに見えたヨリだが、実はヨンセンを流産させようとしていたのである。だが、それは王の子供を殺すということに他ならず、もし露見したら大変な重罪になってしまう。そのことを心配するチェ尚宮にヨリは「絶対にばれません」と断言するのだった。
ヨンセンには妊娠初期に現われがちな血虚(貧血症)の症状が出ていたが、ヨリが熱心にヨンセンの体調管理に努めているのを見て、ミン尚宮も安心していた。ヨリはヨンセンの血虚治療のため、王にすら滅多に出すことのできない牡蠣や牛乳などの高級食材を使うよう、クミョンに掛け合うことまでしていたのである。その姿を目の当たりにし、チャングムもやや警戒を解くのだが・・・
だが、ヨリが帰宅した後ヨンセンの部屋を訪ねたチャングムは彼女の症状を聞いてそれが単なる虚血ではないことに気づく。ヨンセンを産んだ後、長い間病床にあった彼女の母親と同じ風熱(高血圧症)の症状を見せていたのだ。
念のため、シン・イクピルに風熱の症状を確認したチャングムは、最後に訪ねる。「風熱の人が妊娠したらどうなりますか?」
「母体も胎児も危険だ。十中八九出産は無理だ」
ヨリはヨンセンに風熱の症状があるのを見抜き、風熱を悪化させる食材ばかりを選んで食べさせていたのだ。そのことをチェ尚宮とクミョンに説明するヨリ。
チャングムはチェ尚宮の部屋の前で、その会話の一部始終を耳にする。ヨンセンが危ない・・・!

第42話 「王の病」

医女たちによりヨンセンの脈診が行われる。医女たちは皆、ヨリの診断と異なり高血圧の診断を下す。シン・イクピルから問い詰められたヨリは、あくまで貧血と高血圧の見分けがつかなかったと主張。妊娠に関わる誤診のため医女にあるまじき未熟さと、シン・イクピルはヨリの恵民署(ヘーミンソ)への更迭をユンスに訴える。一方チャングムはヨリにチェ女官長への伝言を告げる。アヒル事件の真相を明らかにするために、あの時中宗が倒れた真の原因を突き止めたいチャングム。医学を学んだ今、チャングムは誤診の可能性が最も高いと思っていた。王族には病歴の記録簿が残されている。しかしそれは王室の内密事項に関わるため、チャングムの立場では閲覧できない。チャングムは記録簿のある内書庫(ネソゴ)へ入る手段を思いつき、強行する。チャングムとチョンホが日ごとに脅威となってきたチェ一族。ある企てを思いつくが、チェ女官長はクミョンに決断をゆだねる。クミョンはある思いを胸に、民家にチョンホを呼び出す。中宗の身体に異変が起こる。いつもの傷寒症を発症したようだった……。

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一見妊婦に良さそうでいて、確実にヨンセンの体を害する料理を出し続けること。それがヨリの策略だった。今でさえ中殿に気に入られているというのに、淑媛となったヨンセンがこの上王子を産むようなことになれば、チェ一族といえどもチャングムには全く手出しができなくなってしまう。何としてもヨンセンに子供を産ませてはならないのだ。だが、彼女たちはその企みをチャングムに知られたことには気づいていなかった。
チャンイがいつも通りにヨンセンの食事を用意しているところに、チャングムが血相を変えて飛び込んでくる。「お出ししないで!これからは脂っこい料理は絶対駄目!」「どうして?血虚なんでしょ?最高尚宮様に頼んでやっと手に入れたのに・・・」
「後で詳しく話すけど、とにかく絶対に駄目!わかった?」
シン・イクピルと内医院の医女全員がヨンセンの部屋に集まり、ピソンとシンビがヨンセンを診脈する。ただならぬ雰囲気を察し、事情を尋ねるミン尚宮に、御医女はただ回診に寄っただけだと答えるが、ミン尚宮もヨンセンも不安を隠しきれない。
内医院ではヨリの誤診が問題となっていた。並み居る医女たちの中でも特に優れた技術を持つヨリが、風熱と血虚を区別できなかったなど考えられない。何か意図があって風熱を悪化させるような料理を出させていたことを疑うシン・イクピルとチョン・ウンベクだったが、ヨリは「わからなかった」としか答えない。シン・イクピルはヨリを恵民署に送るべきだと主張するが、チョン・ユンスは彼女を庇って罰当番をさせる程度の処分で済ませてしまう。ミン・ジョンホが副提調となった今、ヨリまで失っては身動きが取れなくなってしまうからだ。
宮中の一角ですれ違うチャングムとヨリ。「やってくれたわね」「今は亡きチョン尚宮様もハン尚宮様も、人の口に入る料理を利用して権力と富を得る者をお許しになりませんでした。私だとて許しはしません。料理でさえそうなのに、人の命を扱う医術ならなおさらのことです。もし再び、あんな非道なことを企めば、次は絶対許したりしません。提調尚宮様にお伝え下さい。私はチョン尚宮様やハン尚宮様のようには行かない、やすやすと濡れ衣を着せられたりはしません、と」
堂々とチェ一族に宣戦布告したチャングム。その後ろ姿を見送るヨリの胸中に去来するものは何だったのか・・・。
突然質素な料理を出すように命じられたことを訝しむミン尚宮は、チャングムにその理由を問い質し、ことの真相を知る。チェ尚宮の陰謀であることは明らかだが、はっきりした証拠がなく訴え出ることもできない。チャングムは、ミン尚宮とチャンイの二人でヨンセンを守って欲しいと頼む。
ヨンセンにまで危険が及んだとあっては、これ以上手を拱いている訳には行かない。このまま時機を待っていればそれだけ彼女の周囲の人々が巻き込まれる可能性は高くなるのだ。チャングムは攻勢に打って出ることを決意する。「ハン尚宮様、もうこれ以上待てません。我慢も限界です」
今も密かにオ・ギョモ周辺の内偵を進めているミン・ジョンホは、チャングムが性急過ぎるのではないかと心配する。このところ王の信頼を失って勢力基盤が弱ってきているとはいえ、宮中で並ぶ者のない実権を握っていることに変わりはないのだ。
「手強いのはいつまで待っても同じです。時には先手を打ってみるのも方法かも知れません」それにはまず、ハン尚宮が濡れ衣を着せられるきっかけになった王の病気の真因を見つけ、当時の御医の診断が誤りであったことを証明しなければならない。
だが、王を診脈することが許されない医女の身分で誤診を証明するのは容易なことではない。王を診脈できるのは御医だけなのだ。そこでチャングムは、内書庫(ネソゴ)に納められた王の病簿を調べることを考えていた。
内書庫は内需司(ネスサ 宮殿用の米穀や布といった物資及び奴婢の管理事務を担当する)が厳重に管理しており、担当の内侍以外は自由に出入りすることができない。内医院の医官でさえ、許可を得て短時間閲覧することができるだけで、病簿の持ち出しや転記はできないのだ。難色を示すミン・ジョンホだったが、チャングムの決意は固い。
チャングムは内書庫の門前で、以前長番内侍にヨンセンのもとに王の足を向かせてくれるよう頼んだ時のことを思い出していた。チャングムはその時病簿のことも相談していたのだ。ヨンセンに関してはできるだけ力になるよう約束してくれたものの、内書庫に入ることは言下に断られてしまった。内書庫を管理している内侍府の責任者である長番内侍なら何とかしてくれるかも知れないという期待を抱いてのことだったが、チャングムが思っていた以上に内書庫を閉ざす扉は重かったのである。
15人の子宝に恵まれた家の長男が来ていた産着。安産に御利益があると言われている仏像の鼻。トック夫妻はヨンセンの安産を願って自分たちが手に入れて来たものをミン尚宮に託す。だが、ヨンセンの不安な気持ちは消えない。内医院総出で診脈を受けて以来、担当の医女が変わり、料理も変わってしまったのだから、不安がるなという方が無理な相談だ。加えて、チェ尚宮とチャングムの夢を見たことが更に彼女を不安にしていた。
不安に苛まれていたのはヨンセンばかりではない。チェ・パンスルはチャングムのこともさることながら、ミン・ジョンホの動向に危機感を強めていた。本来武官を部下として持つ必要のない、承政院の同副承司である彼に従う武官の数が増えているというのだ。ハン尚宮とチャングムを陥れたあの時、クミョンに請われるままにミン・ジョンホを見逃してさえいなければ・・・。臍をかむチェ・パンスルだったが、もう取り返しのつくことではない。ミン・ジョンホは文官でありながら内禁衛に所属し、一時期軍事教練まで担当していたが、通常文官が武官の職に就くことはありえないと思われる。まして、内禁衛将の特命を受けて秘密裏に内偵を行ったりしているとなると、「ナウリ、あなた一体何者ですか」という印象を持たざるを得ない。
「責めるつもりはないわ。私が甘かった。お前を閉じこめてでも終わらせるべきだったのよ」だが、まだ方法がない訳ではない。ミン・ジョンホとチャングムの関係を暴き立てることだ。両班であるミン・ジョンホが、奴婢身分の医女と親密な関係になったことが明らかにされれば、二人とも宮中にいることはできず、ミン・ジョンホはその道徳性を問われて復帰の可能性も絶たれる。チェ尚宮はそのための工作を行うか否かをクミョンに決めさせる。一族を率いていく者として、クミョン自身が克服し、決断しなければならない問題だと考えたのである。
何とかして王の病簿を見たいチャングムは、中殿の肩凝りがなかなか良くならない原因を調べたいという口実を設け、中殿から内書庫の閲覧許可を出してもらおうとする。だが、中殿の担当であるチョン・ウンベクを差し置いてそのようなことを頼むなど、許されることではなかった。だが、チャングムはそれでも諦める訳には行かない。その結果、彼女が再び内医院で孤立することになろうとも。
多くの軋轢を生みつつ、チャングムは内書庫に入る。中は管理担当の内侍が一人いるだけで、思いの外監視は緩い。チャングムは中殿の病簿を閲覧するふりをしつつ、隙を見て王の病簿を靴下に隠してしまう。内書庫を出る際の身体検査でも靴下の中までは調べられず、ついにチャングムは王の病簿を手に入れる。
ところが、急いで薬房に戻り、病簿を取り出そうとしているところをヨリに見られてしまう。チャングムは慌ててその場を取り繕い、薬房から出て行くのだが、ヨリがその不審な行動を見逃すはずがなかった。
チャングムは帰宅するや、チャンドクの薬房に入り、病簿を見せる。事情を察したチャンドクは驚くものの、持ち出してしまったものをとやかく言っても始まらないと考えたのか、チャングムを叱ることもせず、彼女に協力して病簿を書き写し始める。書き写すうちに、チャンドクは王の病歴に不自然な点があることに気づく。王は傷寒症(今日のいわゆる風邪)を周期的に患っていたのだ。だが、直接診脈することができない以上、原因を調べることも容易ではない。チャングムは、王と似た症状のある患者を見つけてくれるようチャンドクに頼む。そして、病簿の持ち出しと書き写しが数日に渡って続けられることになった。
雪の夜、クミョンはミン・ジョンホを呼び出し、宿屋の一室らしき場所で、彼のために料理を用意する。「一度でいい、王様でなく、大事な方のために料理を作りたかった・・・人の気持ちというのは厄介なものでございます。いくら諦めようとしても許されぬと思えば思うほど、想いが深くなって行くのです。女官故叶わぬ想いと知りつつ、身を焦がしました」
「チョンホ様に知っていただきたいのです。そんな女官がいたと。そんな哀れな一人の女官がいたことを知って下さい。心の置き所のない、一人の女官がいたと知って下さい。孤独の中、一人苦しみもがきながら、まるですがるようにチョンホ様を想っていた、そんな女官がいたことを・・・」
「でも、これでもう終わりにしようと決めました。振り向いては下さらない、あなたをこれ以上憎む前に。でも、最後のお願いがございます。心を込めて作りました。私の料理を召し上がっていただけないでしょうか。どうか、お願い致します。お召し上がり下さい」
だが、チョンホは料理に手をつけようとはしない・・・。
宿を出て、それぞれの帰路に着く二人。ミン・ジョンホはふとクミョンのことが気に掛かり、宿屋に引き返す。だが、彼から身を隠し、一人立ちつくすクミョンに気づくことはなかった。
ミン・ジョンホとの別れの儀式を終えたクミョンは、チェ尚宮にはっきりと告げる。「もう、お好きになさって結構です。いいえ、私が終止符を打ちます」
カン・ドックはユン・マッケの料亭に酒を納めている途中で、ユン・マッケから声をかけられ、豪華な料理と酒を振る舞われる。ユン・マッケはトックからチャングムとミン・ジョンホがただならぬ関係であるとの証言を引き出そうとしていたのだ。そんなことに気が回るはずのないトックは、得意げにチャングムとミン・ジョンホのことを喋ろうとする。だが、すんでのところで飛び込んできたトックの妻が事情を察し、トックを連れ出してしまう。
・・・ユン・マッケの企みは失敗したが、チェ・パンスルは外で待っていたオ・ギョモに、疫病の村で証言者を見つけると約束する。もうこれ以上の失敗は許されないのだ。
トック夫妻から事情を聞いたミン・ジョンホは心配することはないと言うのだが、一旦証言する者が現われてしまえば、事実無根ではないだけに申し開きできなくなるのは確実だ。
トックの妻はチャングムに、ミン・ジョンホを諦めるよう諭す。二人の間に身分の壁がある以上、万が一正式に認められるとしてもチャングムは妾にしかなれない。血の繋がりがないとはいえ、娘の幸せを願う母にとって、チャングムとミン・ジョンホの仲はとても認められるものではなかったのだ。トックの妻が「世の中には掟ってものがあるんだから」と言っているが、この「掟」というのは慣習や風習といったレベルのものではなく、れっきとした国法を指す。両班と賤民が結婚することは重罪であり、少なくともミン・ジョンホは官職を追われるのは勿論、両班身分を剥奪されることも有り得る。オ・ギョモとチェ・パンスルはそれを狙っている訳だ。
雪の降りしきる中、チャングムは一人いつまでも考え込んでいた。
王に傷寒症の症状が現われた。関節の痛みと、口内炎。そして発熱。王を診脈したチョン・ユンスは、前任の御医が傷寒症以外の病気を疑い、王の診脈をやり直すと言っていたことを思い出す。あの時はハン尚宮を陥れるために真実は闇の中に葬られたが、今度こそは本当の原因を突きとめなければならない。
内書庫で、王の病簿を調べるチョン・ユンス。だが、調べている途中で彼は都提調が探していると偽って呼び出され、二人の内侍に連れ去られてしまう。
チョン・ユンスが去った後、入れ違いに内書庫に入るチャングム。担当の内侍が不在であることを理由に内書庫から出るよう命じられた彼女も、チョン・ユンス同様内侍たちに拉致される。
チャングムが連れて来られたのは、内侍府の監察府だった。病簿が一冊なくなっていることに気づいた監察府はまずチョン・ユンスを疑ったのだが、彼は病簿を持っておらず、彼以外に内書庫に入った唯一の存在であるチャングムが疑われることになったのだ。
監察内侍からチャングムが監察府で取り調べを受けていることがチョン・ユンスに伝えられる。全てを秘密裏に済ませるため、チョン・ユンスがチャングムを外部に派遣したことにして欲しいという監察内侍。
チョン・ユンスとチェ尚宮にとって、チャングムが監察府で取り調べを受けていることは看過できない重大事だった。監察府が動いているということは、王の身に関わる重要な問題が調査されているということだ。事と次第によっては、最も明かされたくない事実が判明してしまう可能性もある。チェ尚宮は、早速ユン・マッケとヨンノに命じてチャングムが監察府の取り調べを受けることになった原因を調べさせる。
不在だった長番内侍が戻り、報告を受けるために監察府を訪れる。そして、そこに座っているのがチャングムであることを知り驚愕する。「お前は自分の命が惜しくないのか?」「命など惜しくありません。ただ、ハン尚宮様の恨みを晴らしてさしあげたい、何としてでも晴らして差し上げたいのです!」
チョン・ユンスとヨリの証言から、チェ尚宮はチャングムが病簿を持ち出したことを確信する。チャングムの目的がハン尚宮の濡れ衣を晴らすことにあるのは明らかだが、王の病簿を持ち出した罪は重い。このまま帰されることさえなければ、彼女たちが手を下すまでもなくチャングムは死ぬことになるはずだ。立場が悪くなるどころか、これは彼女たちにとって好都合だ。
だが、長番内侍のはからいにより、チャングムの病簿持ち出しは、行きすぎた好奇心故の行為として不問に付される。
チャングムを連れて監察府を立ち去る長番内侍に、チェ尚宮が声をかける。「殿下を裏切るおつもりですか?」
第43話 「皇后の決断」

チャングムを追い詰めようとしたものの、内侍府(ネシブ)の長官に阻まれたチェ女官長。ユンスを呼び出し、次なる手を考える。ユンスは内侍府(ネシブ)の人間の抱きこみを提案、チェ女官長はオ・ギョモに頼み、ことを進める。ユンスは中宗を傷寒症と診断していることに一抹の不安を抱いていた。ヨリを使ってひそかに別の処方を試し始める。ユンスたちの動きに気付いたチャングムは、誤診が隠ぺいされる前に真の病気を明かさねばと、急ぎ解明に取り組む。パンスルの働きかけで内侍府(ネシブ)の人間から証言を得たチェ女官長は、再び内侍府(ネシブ)の長官に詰め寄る。窮した内侍府(ネシブ)の長官は判断を皇后に委ねることに。事の次第を知った皇后は、チャングムに掟どおりの処分を厳命する。屍(しかばね)の門から袋が運び出されるのを確認したチェ女官長とクミョン。安堵したのもつかの間、今度はクミョンが取調べを受けることに。傷寒症で療養中の中宗が倒れたのだ。

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チャングムを不問に付すとはどういうことかと長番内侍に詰め寄るチェ尚宮。長番内侍の権限でチャングムを赦免することができたのは、内侍府以外にこの件が漏れていなかったからだ。チェ尚宮はそこにつけいろうとしたのである。
だが、長番内侍は動じない。内侍府が問題にしているのは、中殿の許しを得たとはいえ、一介の医女が内書庫に出入りしたことであり、病簿日誌の持ち出しなどなかったというのである。それどころか、無責任な噂に惑わされて、尚宮ごときが王直属である内侍府の問題に口出しするなと逆にチェ尚宮を叱責する。
言葉を失い退出するチェ尚宮。彼女が部屋を出た後、長番内侍はうつむくチャングムに厳しい表情で言葉をかける。
「これで事の重大さが飲み込めたであろう」
長番内侍のはからいによって無事帰って来ることができたチャングムだったが、ミン・ジョンホとチャンドクの心配をよそに、彼女は誤診の証明を諦めようとはしない。彼女には後ろを振り向いている余裕などないのだ。だが、せっかく危険を冒してまで調べた病簿日誌からも傷寒症以外の病気を見つけ出す手がかりは得られていない。
一方、チョン・ユンスも前任の御医とともに下した診断に誤りがあったのではないかと、必死に医書を調べていた。だが、彼も手がかりを掴むことができずに苦悩する。誤診であることが明かされたら責任を問われるのは間違いない。誰にも知られることなく治療してしまうしかないのだ。
チェ尚宮はチョン・ユンス以上に焦っていた。チャングムが家鴨事件の真相を明かそうとしているのは間違いない。このまま放っておけば、チェ尚宮個人に止まらず、チェ一族全体の存亡に関わる事態に発展してしまうだろう。何としてもチャングムの病簿日誌持ち出しを明らかにするしかないが、秘密を知るのは監察内侍と、書籍の管理をする内需司の尚冊(サンチェク)だけだ。だが、内侍の口の堅さには定評があるが、やってみるしかないのだ。
チェ・パンスルはオ・ギョモに尚冊から事実を聞き出してもらうよう依頼するが、オ・ギョモは難色を示す。内侍府は王直属の組織であり、そこに属する官員たちはオ・ギョモといえども簡単に圧力をかけられる相手ではない。オ・ギョモもチェ尚宮も王と中殿の信頼を失いつつある今、うかつな行動は慎むべきだった。また、オ・ギョモはチェ一族が異常なまでににチャングムを警戒することに疑問を抱く。ハン尚宮の一件も、本来チャングムまで追放する必要はなかったのに、彼らは死罪にして欲しいとまで言ったのだ。あの事件の真相が明るみに出るれば確かにオ・ギョモにも害は及ぶが、一介の医女にできることなどたかが知れている。
それでもオ・ギョモは請われるままに監察内侍をユン・マッケが経営する料亭に呼び出し、内医院の都提調である自分は王の病簿日誌に関わる問題を知っておく必要があるからと尚冊の説得にかかる。だが、全く効果はなく、逆にこのことを長番内侍に報告しても良いのかと脅される。
カン・ドックは料亭の妓生ヒャングムから、オ・ギョモが尚冊を呼び出したこと、尚冊が出て行った後チェ・パンスルが部屋に入り、オ・ギョモに怒鳴り散らされていたことを知らされ、ただちにミン・ジョンホに報告する。ミン・ジョンホはカン・ドックを使ってヒャングムのような下々の者からの情報を集めていたのだ。
王の病状は一向に良くならない。以前は傷寒症を患っても数日で治っていたのに、近年は患う回数が増えた上に、回復までの時間も長くなって来ていた。中殿からその理由を問われたチョン・ユンスは、気力の衰えによるものと説明する。
自分の診断に自信を持つようヨリに励まされるチョン・ユンス。だが、彼の疑念は王の病が長引くにつれますます深くなっていた。以前短期間で治っていたのも治療によるものではなく、単なる自然治癒だったのではないか・・・。そしてチョン・ユンスはヨリにあることを命じる。
チェ・パンスルが明から輸入した飛龍(雉に似た鳥)と山伏茸を使って王の食事を用意するクミョン。この二つの食材は滋養強壮に効果があり、気力の弱った王には効果があるはずだった。禁忌食材を伝えるため水刺間を訪れたヨリは、クミョンが使っている調味料入れの器を妙に気にしている。一体ヨリは何を考えているのか・・・。
内医院では王の病状を巡っての話し合いが行われる。だが、チョン・ウンベクもシン・イクピルも、傷寒症としか考えようがなく、打開策は見つからない。
だが、一人チャングムだけは他の医官たちとは異なる点に注目していた。王の悪瘡(皮膚の腫れ物)と口瘡(口内炎)である。シン・イクピルの助言を得て、彼女は医書を調べ始める。
更にチョン・ユンスの処方箋を見せてもらおうとしたチャングムは、王の担当医女であるウンビとチョドンから妙な話を聞かされる。チョン・ユンスの命令で突然チョボクに替わってヨリが担当になったというのだ。しかも彼女はチョドンには処方箋すら見せず、一人で王の湯薬を作っているらしい。これにはきっと何か理由があるはずだ。

最近のチャングムの行動は、明らかに常軌を逸している。命の危険を冒してまで彼女は何を知ろうとしているのか。シンビはチャングムの力になりたいと、その理由を尋ねる。そしてチャングムは自分が宮中を追われることになった経緯を話すのだった。

シンビはチャングムに協力することを約束し、早速ヨリの作っている湯薬のことを調べ始める。チャングムでは警戒されてしまうところだが、シンビならヨリが薬を煎じている時すぐ側にいても怪しまれない。シンビはヨリは薬湯を作るたびに残りの薬材を捨てているのに気づく。
ウンビからはヨリが王に出している湯薬の色が毎回違っているようだという情報も得られる。

チョ・チボクに頼んで薬材出納簿を調べたチャングムとシンビは、王の湯薬は毎回同じ材料を使って作られているものの、何人かの宮女の治療用として様々な薬材が出ていることを突きとめる。ヨリはその薬材を宮女たちには与えず、毎回異なる湯薬を王に出していたのだ。

その頃、ミン・ジョンホは副官がチェ・パンスル商団の倉から押収して来た地図を見て、かつて倭寇の密偵が持っていた地図(第9話で登場)と似た位置に意味不明な印が付けられているのに気づく。
チャンドクの薬房で、お互いの調べたことを報告しあうチャングムとミン・ジョンホ。チョン・ユンスがヨリに色々な薬材を試させているのは、傷寒症ではないと見ている証拠だ。だが、チョン・ユンスが王の病の正体を突きとめてしまえば、事実を隠蔽して何事もなかったように傷寒症として処理してしまうに違いない。彼よりも先に原因を突きとめなければ、ハン尚宮の名誉回復は不可能になってしまう。
一方、ミン・ジョンホは二つの地図を比較するため、当時承政院に提出した倭寇の地図を調べようとしたのだが、その地図はいつの間にか紛失してしまっていたという。それがいつのことだったのかは判らないが、チェ一族が手を回したに違いない。
その頃、チェ・パンスルに横領の弱みを握られた尚冊は、オ・ギョモに呼び出され、チャングムが病簿日誌を持ち出していたという話が事実であることを教えてしまっていた。内需司の問題として処理するため、口出しをしないようオ・ギョモに約束はさせるが、チャングムが亡き者になるならチェ一族には同じことだ。
そのやりとりを部屋の外で立ち聞きしていたヒャングムからの知らせを受け、カン・ドックは翌朝早々にミン・ジョンホにそのことを報告する。状況がよく呑みこめていないトックは褒美がもらえると上機嫌だったが、このままではチャングムが危ない。ミン・ジョンホは急いでチャングムを止めようと走るが、彼女は既に宮中に出仕した後だった。

長番内侍にチャングムの処罰を迫るチェ尚宮。長番内侍も尚冊から出た話とあってはごまかしようがない。尚冊も長番内侍の処分が甘すぎると感じたから話したのだとチェ尚宮の肩を持つ。

長番内侍は、病床にある王の代わりに中殿の判断を仰ぐことにするのが精一杯だった。

中殿は自分の信頼を利用して王の病簿日誌を持ち出した行為に怒る。必死にとりなそうとする長番内侍だったが、中殿は直ちににチャングムを処罰するように命じる。
再び内侍府の監察部に連行されるチャングム。中殿が内需司の法道に従って処分せよとの命令を下しているだけに、長番内侍も今度は庇ってやることができない。夜を待って処分を行うようにと監察内侍に指示し、長番内侍は監察部を立ち去ってしまう。
思惑通りの展開にほくそ笑むチェ尚宮。後はチャングムが宮中から連れ出されるのを見届けるだけで良い。
監察部の取り調べ室に取り残され、刻々と迫る死の時を待つチャングム。「ハン尚宮様。恐怖は感じません。後悔も感じません。でも、ただただ残念です。真相を明かせたのに。いえ、絶対に明かさなければならなかったのに・・・」
夜になり、内侍たちの手で宮中から何処とも知れぬ山中に連れ出されるチャングム。一人の内侍から尚冊に毒薬の壺が手渡される・・・。
ユン・マッケとヨンノの報告から、チャングムが間違いなく宮外に連れ出されたことを知ったチェ尚宮は、これで全てが終わったと安堵する。
だが、安心したのも束の間、クミョンが内侍府の呼び出しを受ける。前夜から具合が悪かった王がとうとう意識を失って倒れたため、水刺間最高尚宮を取り調べるというのだ。取り乱すヨンノには「ただの調査だ」と言ったものの、チェ尚宮も平静ではいられない事態だった。
チョン・ユンスもまた、王が倒れるという非常事態に平静を失っていた。彼が出していた湯薬はどれも薬効の弱いものばかりで、今回王が倒れた原因とは思えない。だが、食事か薬かという問題になるのは避けられず、そうなればチェ尚宮を相手にしなければならなくなるのだ。そんな彼に、自分が手を打つから食事に原因があるという主張を押し通すように言うヨリ。
内医院と水刺間合同で原因調査が始まる。自分が色々な湯薬を試していたことはおくびにも出さず、従来通りの湯薬を飲んで倒れることなど有り得ないと主張するチョン・ユンス。従来と異なっていたのはむしろ食事である。明から取り寄せたという飛龍と山伏茸。しかもそれはチェ・パンスル商団を通じて最高尚宮が私的に出した外国の食材だ。これは以前ハン尚宮が陥れられた時と同じ状況である。
チェ尚宮は誤診ではないかと主張するが、その場で結論が出せるものではない。内医院都提調であるオ・ギョモは、医官に引き続き調査するよう命じる。そして最高尚宮の処分を決しようとした時、長番内侍が割って入る。「前例があります。それに倣いましょう。最高尚宮の身柄を一時拘束し、内侍府・内禁衛・内医院が合同で水刺間を調査しましょう」オ・ギョモもハン尚宮の時と同じ処分と言われては反対できない。
チェ尚宮は腕のいい医員を見つけ、誤診を証明して欲しいと兄パンスルに頼むが、その策は諸刃の剣であった。今回だけでなく、前回も誤診だったと判断されたら、罪を負うのは彼ら自身だ。まして、今は内医正であるチョン・ユンスの方が地位が高いのだ。うかつなことはできない。両方の顔を立てるような処置でなければ意味がないのだ。
チョン・ユンスもチェ一族との決定的な対立は望んでいなかった。王の容体を安定させ、チェ尚宮とも和解できる方法を探すようヨリに命じる。
医書を調べながら、チョン・ウンベクはシン・イクピルにチャングムが宮中から追われた時のことを話す。その話を聞いたシン・イクピルは誤診か否かを徹底的に究明しようと決意する。「私は誤診で人を死なせたことがあります。傲慢さから人の命を奪い、家族にも迷惑をかけた。チャングムのことは私にとっては他人事ではありません」

 医女たちはチャングムが姿を見せないことを不審に思い始めていた。そして結局シンビがチャングムを探して来るよういいつけられる。ヨンセンはチャングムが二日も姿を見せないのを心配していたが、ミン尚宮とチャンイはクミョンが捕えられたと知って様子をうかがっているに違いないと余り気にしていない。だが、チャングムを探すシンビの来訪により、浮ついた気分は一度に冷めてしまった。

夜になってもチャングムの行方を捜し続けるシンビ。チャンドクも調べることがあるからと言い置いて薬房を空けているらしく、彼女は途方に暮れていた。
クミョンのことを聞いて、無意識のうちに踊り始めてしまうほどに喜ぶトック夫婦。だが、その喜びも長くは続かなかった。チャングムを探しに来たシンビから、チャングムの失踪を知らされたのだ。
しかし、チャングムは殺されてはいなかった。深夜、彼女は宮中の一室に連れ込まれ、戒めを解かれる。一体ここはどこなのか。脅える彼女の前に意外な人物が姿を現す。
それは中殿だった。「既にお前は宮中からは消え去った身なのだ。死んだも同然。しかしすぐに殺さず猶予を与えた訳は、お前が王様のご病気は誤診ではないかと考え、真実を突きとめようとしていると聞いたからだ。それは真なのか?」「・・・はい」「突きとめられるのか?いや、答など聞くまでもない。突きとめてみせよ。突きとめられたなら、再びこの世に戻してやろう。突きとめられねば、永遠に闇に消え去るのみ。どうだ、できるか?」
脅えながらも顔を上げるチャングム。その目には固い決意とともに希望の光が宿っていた。

第44話 「投獄」

皇后に命じられ、中宗の病気の真相を突き止めることになったチャングム。内侍府(ネシブ)の長官に連れられて行った菜園には、チョンホとチャンドクが待っていた。すでに菜園には中宗と同じく傷寒症を繰り返している患者が集められており、チャングムは早速、治療を始める。一方、宮中では相変わらず水剌間(スラッカン)と内医院(ネイウォン)が責任のなすりあい。チョンホの提案でウンベク、イクピルも中宗の脈診をすることに。これ以上チェ一族との対立を長引かせたくないユンスだが、ヨリはさらにクミョンを陥れる細工をする。そのためパンスルの屋敷にまで捜査が及ぶことになる。ヨリは状況を報告するため、ある家を訪れる。チャングムはシンビに頼み、以前王殿に仕えていたウンビから話を聞きだす。ささいな症状のため中宗の病状日誌に書かれていない事柄が、実は病状に関与しているのではないか、とチャングムは推測していたのだ。ウンビとシンビの会話を偶然耳にしたユンスもあることに思い当たるのだった。窮地に陥っているチェ一族の頼みの綱はオ・ギョモ。しかしオ・ギョモ自身も保身を図り、クミョンにつづき、チェ女官長、チェ・パンスルも投獄されることになる。

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長番内侍はチャングムを茶斎軒(タジェホン)に連れて行く。そこに今回の一件を計画した人物がいるという。
雪のちらつく茶斎軒でチャングムと長番内侍を出迎えたのはミン・ジョンホとチャンドクだった。チャングムの身に危険が迫っていると知ったミン・ジョンホは、チェ尚宮に先んじて長番内侍と接触し、彼を通じて中殿に相談を持ちかけていたのだ。チャングムが殺されたと見せかけて茶斎軒に身を隠させ、王の病気の原因究明に専念させるという彼らの計画は見事に成功した。そして、茶斎軒には既に病舎が造られており、万全の体制が整えられていた。
だが、王の病気が何か明かすことができなければ、チャングムはもとより、この計画を中殿に進言したミン・ジョンホも無事では済むまい。そのことを心配するチャンドクだったが、チャングムとミン・ジョンホは、これがオ・ギョモとチェ一族の陰謀を暴く最後の機会だからこそ何としても事実を明かさなければならないのだと考えていた。
茶斎軒に造られた病舎には王と同じく頻繁に傷寒症にかかる患者が10人ほど集められていた。彼らの病状を丹念に調べて行く以外、手がかりを得る方法はない。王の病簿日誌の写しだけをたよりに、チャングムとチャンドクはその気が遠くなるような作業に着手するのだった。
そして、二人を茶斎軒に残して内医院に戻ったミン・ジョンホは、チャングムが済州島に戻したことにして、無用な詮索を封じてしまう。
チョン・ユンスの診断に間違いがないことを証明するため、チョン・ウンベクとシン・イクピルも王を診脈することを許される。二人の診断はやはり傷寒症であり、疑わしい点は無かった。だが、シン・イクピルは病簿日誌に記録されていない些細な症状に手がかりが隠されているのではないかと考えていた。王は以前から病気がちであったため、細かい点まで記録されなかった可能性は十分ある。
チョン・ユンスはチェ尚宮との関係悪化を懸念し、料理が原因でないことも証明して問題をうやむやにしたいとヨリに話す。だがその話を聞いたヨリは複雑な表情を浮かべる。
チョン・ユンスと別れた後、ヨリは一人物陰で年嵩の尚宮から何かを受け取ると、それを持って水刺間に向かう。そして、人目を避けるようにしてクミョンの調味料入れの在処を窺うのだった。
内侍府は本格的に水刺間の調査に乗り出す。厨房の隅々まで調べ、有害な食材を探す内侍たち。一方、内禁衛は水刺間で使われる食材を一手に引き受けているチェ・パンスル商団を調査し、チェ・パンスルの屋敷までが調べられることになる。ミン・ジョンホはこの機会に乗じて帳簿類なども押収させ、徹底的にチェ・パンスルの身辺を捜索しようと考えたのだ。
水刺間の倉庫とチェ・パンスルの屋敷から疑わしい食材が押収される。だが、それぞれにもっともな理由があって置かれていたものばかりで、決定的な証拠となるようなものは何も無かった。元々食事に毒など混ぜていないのだから、いくら疑われたところで証拠が出るはずがない。落ち着き払った様子のチェ尚宮。
クミョンが使っていた調味料入れに入っていた粉末の匂いを嗅いだシン・イクピルとチョン・ウンベクは顔色を変える。それはチェ一族に代々伝わる薬味で、最高尚宮だけが使ってきたものだった。秘伝ゆえ材料は明かせないが、害のあるものではないというチェ尚宮にチョン・ウンベクは言う。「笑い茸が体に害がないとは思えません」金剛山の松茸を使って作ったはずの粉末は、いつの間にか笑い茸の粉末にすり替えられていた。
「これは罠です!誰かがこっそり器に入れたのでしょう!」何者かの陰謀だと訴えるチェ尚宮だったが、笑い茸の粉末が決定的な証拠として扱われるのは避けようがない。
激昂するチェ尚宮を冷ややかに見つめるヨリ・・・
茶斎軒で患者たちを診察し続けていたチャングムは、患者の中に傷寒症には見られない妙な症状が出ている者がいることに気づく。鍼を打った跡が腫れて膿んでいたのだ。病簿日誌によると王も小さな傷が膿むことがあったという。王の病気と何か関係があるのだろうか・・・。
ミン・ジョンホは茶斎軒を訪れ、チェ・パンスルの屋敷で押収した胡椒をチャングムに見せる。それは珍しい倭国の胡椒だった。以前副官が押収した地図といい、今回の胡椒といい、チェ・パンスルと倭国には何らかの繋がりがあるのだ。
チャングムはミン・ジョンホを通じてシンビにウンビが王を担当していた頃のことを確認させる。チャングムが睨んだ通り、王は小さな傷が膿むことが頻繁にあり、皮膚病も多かったという。個々の症状が軽く、頻繁に起こっていたため、病簿日誌には記録されなかったのだ。
そのウンビの話を偶然耳にしたチョン・ユンスは、何か心あたりがあるのか書庫へと急ぐ。だが、その途中でチェ・パンスルに出くわしてしまう。何故自分たちを陥れようとするのかと詰め寄るチェ・パンスルだったが、チョン・ユンスには全く心当たりがない。
チェ尚宮と話し合うチェ・パンスル。チェ一族にもしものことがあれば、チョン・ユンスも一蓮托生なのだ。自ら首を絞めるような真似をしたとは考えにくい。心当たりがないというのも嘘ではあるまい。だが、笑い茸はかつて彼らがハン尚宮を陥れようと用意していたものだ。明らかにチェ一族に害意を持つ何者かの陰謀なのだ。
誰がチェ一族を罠にかけようとしているのか判らぬまま、チェ・パンスルはオ・ギョモを頼る。だが、左賛成やミン・ジョンホが動いている上、中殿も目を光らせている。笑い茸という証拠品も出てしまった以上、オ・ギョモもうかつに手出しをすることができない。チェ・パンスルはオ・ギョモに金を渡し、イ・グァンヒ左議政(チャイジョン 議政府の高官。オ・ギョモは右議政である。左議政も右議政も同じく正一品だが、左議政の方が格が高い)に会ってくれるよう頼む。大妃に対して影響力を持っているイ・グァンヒを通じて、中殿を牽制してもらおうというのである。
イ・グァンヒの居宅に向かう途中、オ・ギョモに宛てた手紙を届けに来た者があった。その手紙を読んだオ・ギョモは顔色を変え、急遽行き先を変更するのだった。
オ・ギョモが案内された屋敷には前任の提調尚宮パク・ヨンシンと、スバル尚宮、そしてヨリがいた。ヨリは幼い頃両親を失い、姉弟たちとともにパク・ヨンシンに救われた身の上だったのである。その恩に報いるため、ヨリはチェ一族に服従するふりをして機会を窺っていたのだ。チャングムを狙ったのも、そうすればチェ尚宮の信頼を得られるというパク・ヨンシンの言葉に従ってのことだった。背後にパク・ヨンシンがいたからこそ、チェ一族を陥れる道具としてハン尚宮の時と同じ笑い茸が使われたのである。ここでこの人が現われて驚いた人も多かったのではないかと思うが、出てきたこと以上に孤児を助けるような面が彼女にあったのが意外である。
パク・ヨンシンは、チェ・パンスル商団を滅ぼしてしまえば、彼らが得ていた利益も全て得ることができるとオ・ギョモをそそのかす。そただ事の成り行きを黙って見ていれば、チェ一族は滅び去り、オ・ギョモは莫大な利益を得る。その対価としてパク・ヨンシンが望んだのは再び提調尚宮の座につくことだけだった。結局オ・ギョモはイ・グァンヒを訪ねるのを中止してしまう。彼はチェ一族を見捨てたのである。
ついにクミョンは投獄される。チェ尚宮にはチョン・ユンスが保身のために企んだことではないかという疑念を捨てることができなかった。
シンビがウンビたちから聞き出して来た情報から、チャングムは小さな傷に過敏な反応を示す二人の患者が、王と同じ病気に罹患しているとの確信を得る。
だが、シンビとウンビの会話を立ち聞きしたチョン・ユンスも同じ手がかりから王の病気の正体に迫りつつあった。チェ尚宮との関係が決定的に悪化する前に、内医院と水刺間双方の面目を保てる解決策を見つけようと焦るチョン・ユンス。
そんな彼にヨリは秘伝の薬味と笑い茸の粉末を入れ替えたのが自分であることを打ち明ける。そしてオ・ギョモが心変わりしたことを伝え、心配せず王の治療法を見つけて欲しいと言う。チョン・ユンスは言葉を失う。保身と目先の欲から生まれた欺瞞は、いつの間にか彼自身を恐るべき暗闘のただ中に追い込んでいたのだ。
オ・ギョモはチェ一族を裏切ったことなどおくびにも出さず、イ・グァンヒへの働きかけが失敗に終わったことをチェ尚宮に話す。何とかしてクミョンは助けると口では言うものの、もとより彼にそのつもりはない。オ・ギョモ以外に頼る者のないチェ尚宮は気をもむばかりだった。
ミン・ジョンホはチェ・パンスル商団から押収した地図の妙な印が何を意味するのか調べるため、部下を印のつけられた場所へと派遣する。
オ・ギョモを尾行していたトックは、彼がパク・ヨンシンと密会しているのを見つけ、ミン・ジョンホに報告する。オ・ギョモを糾弾する証拠が見つかればきっとチャングムは済州島から戻ってくるとトック夫婦は信じているのだ。だが、単に前提調尚宮と会っていたというだけではオ・ギョモを追い込むことはまだできない。ミン・ジョンホのその言葉に落胆するトック夫婦。
彼らにはオ・ギョモとパク・ヨンシンの密会が何を意味するのかすら知る術がなく、あれこれと想像してみることしかできない。だが、かつてチャングムが済州島に追放された時と違い、ミン・ジョンホが都に残って平然としているのだから大丈夫なのだろうと、幾分は安心するのだった。遠からず、チャングムは帰ってくるだろう。
そしてその翌日、チェ・パンスル商団を見張っていたトックの妻の眼前で、遂にチェ・パンスルが捕えられる。
更にチェ尚宮も捕えられ、義禁府に押送される。
三人が拷問されるのを見て後ろ盾を失う恐怖に駆られたヨンノはヨンセンに頼ろうとするが、ヨンセンが聞き入れるはずもない。必死にヨンセンにすがるうち、ヨンノはついチャングムが病簿日誌を盗んだ罪を問われ、屍躯門(シグムン 現在の光化門。死体を運び出す時に使用された。NHK版では「屍の門」になっている)から宮外に連れ出されたと口走る。
チャングムは済州島に行っていると信じていたヨンセンは驚きの余り具合が悪くなってしまう。折良く戻ってきたミン尚宮とチャンイに責め立てられるヨンノ。かつてチョン尚宮が宮中を追われた時、ヨンセンのことを「糸の切れた凧」と馬鹿にしたヨンノ自身が今は「糸の切れた凧」なのだ。
治療のために呼ばれたシンビは、ミン尚宮とチャンイに水と湯を用意させ、ヨンセンと二人きりになったのを見計らってチャングムがどこにいるのかを教える。途端に満面の笑みを浮かべて元気を取り戻すヨンセンであった。
昼夜を分かたず王と同じ病にかかった患者の治療に当たっていたチャングムとチャンドクはついに効果のある治療法を発見する。
だが、チェ尚宮とクミョンが捕えられた今、チャングムは再び選択しなければならなかった。このまましばらくの間治療法を伏せておけば、チェ尚宮とクミョンは処刑されるのだ。
チェ尚宮とクミョンが繋がれた牢にチャングムが姿を見せる。「チャングム!お前の仕業だね!」「ハン尚宮様と私がいた牢に入ることになるなんて、夢にも思わなかったことでしょう。しかも、私たちと全く同じ容疑をかけられて」「お前が仕掛けた罠だね。笑い茸を入れたのはお前だったんだ」「私が入れたとお思いですか?私はそんな小細工はしません。そのような幼稚な真似は致しません」
「何?幼稚な真似?立場が逆になったからと、いい気になるんじゃないよ!いい?私はハン尚宮とは違う。誰も私に手出しなどできぬ」
「最後の機会を差し上げましょう。今までの罪を償い、人間として正しく生きる機会です。おのれの罪を悔い、ハン尚宮様に謝罪なさって下さい。涙を流し、心から許しを請うのです。反省なさったらいかがですか?人間なら、人の心があるなら、そうなさるべきです」「嫌よ。反省などしない。このまま死ねというなら死ぬ。何と罵られようが、お前に謝罪などしない。赦しを請うこともしない」
牢を立ち去るチャングム。「・・・そうよ、私はお前の赦しなど請わない。もしも赦しを請う人がいるとしたら、それはあのお方だけ」チャングムにクミョンの心の声は届かない。
チャングムはまだ迷っていた。このままチェ尚宮とクミョンが死んだとしても、ハン尚宮の無念を晴らすことはできない。そのためには結果的に二人を救うことになったとしても、真実を明かすしかないのだ。だが、それは余りに辛い決断だった。
パク・ヨンシンはオ・ギョモにチェ尚宮の行状を記した証拠文書を見せる。彼女が取り調べを受けるように仕向け、それに時機を合わせてこの証拠を義禁府に提出すれば、チェ一族は滅びることになる。
まだ自分たちが見捨てられたと知らないチェ尚宮は、ユン・マッケを通じてオ・ギョモとの接触を図っていたが、居留守を使われて全く接触することができずにいた。状況が全く掴めないまま、チェ尚宮はオ・ギョモに宛てた手紙をユン・マッケに託す。クミョンの表情に不安の色が浮かぶ。
パク・ヨンシンが用意した証拠文書はパク・プギョムの手に渡り、チェ尚宮たち三人の運命はもはや風前の灯火だった。
繰り返される拷問に半死半生となっても、三人は自分たちの無実とチョン・ユンスの陰謀を訴え続ける。ここで行われている拷問は、足首と膝を揃えてきつく縛り、その間に挟んだ丸太を外側に向けてこじるというものである。激痛を与えるだけでなく、歩行不能にして逃亡を防ぐという効果があったようだ。
だが、チャングムを伴って現われたミン・ジョンホが三人への拷問を止めさせる。
ミン・ジョンホを見つめるクミョン。・・・彼の傍らにはチャングムがいる。
そして、チャングムは取り調べ官に告げる。「料理には何の問題もございません。誤診でございます」
チャングムの表情には憐憫も同情もなかった。彼女がここに来たのは三人を救うためではなく、彼らが本当に受けるべき罰を受けさせるためなのだから。


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