45〜48話


第45話 「失明の危機」

患者たちの治療を続けた結果、病名はわからないものの中宗の病気の真相を確信したチャングム。時を同じくして、医学書を読みあさったユンス、そしてウンベクとイクピルも真相に気付く。宮中に戻り皇后に報告するチャングム。そこへユンスが姿をあらわし、病名と処方をチャングムに先んじて告げる。しかしユンスの処方はチャングムのそれとは異なるものだった。一方、皇后が独断でことを進めていることに不満のオ・ギョモたち。しきたりを無視したやり方だと皇后を非難し、医局長ユンスとオ・ギョモに主導権を戻すよう要請、皇后も従わざるを得なくなる。しかしながらユンスの処方で中宗の病状は悪化、皇后はあらためてチャングムに中宗の治療をゆだねることに。また同時に、チェ女官長とクミョンにきせられた疑いも晴れることになる。チェ女官長はヨリを試し、ヨリの背後にいる人物の正体を知る。いったんは回復の兆しを見せた中宗だが、容態は再び急変。捕らえられ皇后に詰問されたチャングムは、治療を間違えたのではなく病が進行した結果だと告げる。

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再び牢に戻されるチェ一族の三人。チャングムを亡き者としたはずだった彼らの運命は、今やチャングム握られていた。
中殿の命を受けたというチャングムとミン・ジョンホの登場により、オ・ギョモらの計画も頓挫してしまう。前提調尚宮パク・ヨンシンが用意した証拠書類も、中殿の意図が読めぬ以上うかつに提出はできない。オ・ギョモは当面様子を見て、もしチェ尚宮とクミョンが釈放されることになったら、自分が手を打ったことにするようパク・プギョムに指示する。
チョン・ユンスはチョ・チボクが実家から借り受けて来た医書に手がかりを求める。チョ・チボクの家は何人かの儒医を輩出した家柄で、蔵書の中には貴重な医書もあるらしい。その中で彼が目を止めたのは、『傷寒論』で知られる傷寒症の権威、張仲景の『金匱要略』だった。それは細々とした雑病を解説したもので、チョ・チボク本人の弁によれば、朝鮮では彼の家にしかないという。
同じ頃、シン・イクピルとチョン・ウンベクも『金匱要略』を手にしていた。シン・イクピルが成均館の書庫で見つけて来ていたのだ。彼らはその本の中に、王の症状と似たものが記されていることに気づく
チャングムとミン・ジョンホは王の治療法を見つけたことを中殿に報告する。だが、中殿から病気の原因と病名を尋ねられたチャングムは言葉を詰まらせる。治療法は見つけたものの、原因はつかみ切れておらず、まして病名など調べている余裕はなかったのだ。
そこに割って入ったのはチョン・ユンスだった。「狐惑病でございます」彼もまた『金匱要略』から王の症状に似た病を見つけていたのである。だが、治療法に関して二人の主張は全く異なっていた。甘草瀉心湯を使うべきだというチョン・ユンスに対し、チャングムは龍胆瀉肝湯を使うべきだという。
チョン・ユンスは張仲景が『金匱要略』に書き記した処方の正当性を主張するが、チョン・ウンベクとシン・イクピルは慎重になるべきだとして彼に同調しない。実際に患者を治療した実績を持つチャングムの言葉を軽視はできないからだ。
そして、三人の医官が改めて王を診脈することになるが、チョpン・ウンベクとシン・イクピルはチャングムの主張を支持する。

だが、中殿が独断でチャングムに王の病気についての調査を命じたことに対し、高官たちの間には不満の声が上がっていた。これは明らかな越権行為であり、中殿に他の意図があるのではないかと疑う者も出てきていたのだ。オ・ギョモは高官たちを引き連れ、中殿に抗議する。内医院を統轄する都提調である自分と、内医正チョン・ユンスを無視するのは法道に反するという言葉に、中殿も反論することができない。

これ以上病が進行すると腸に穴が空いたり、呼吸困難を引き起こす他、更に深刻な症状に至る可能性がある。今適切な処置をしなければ症状が悪化してしまうというチャングムの訴えも空しく、中殿はチョン・ユンスに治療を任せてしまう。
食事が原因ではないと判ってなお自分たちが釈放されないことにチェ尚宮は苛立ち、ヨンノにオ・ギョモへの伝言を託す。だが、クミョンは事態の推移に穏やかならざるものを感じていた。
チョン・ユンスが治療を始めて間もなく、王の容体が突然悪化する。しかもそれは、チャングムが予見した通りの症状だった。背筋を伸ばせぬほど激しい腹痛に襲われて苦しむ王の姿に、中殿は怒りを爆発させる。王が苦しんでいるのに、法道云々のために王を放っておくのかという中殿に、今度はオ・ギョモとチョン・ユンスが言葉を失う。
改めてチャングムから治療方法を聞いた医官たちは、承泣・攅竹・晴明に施鍼するようにという言葉に顔色を変える。いずれも危険を伴う穴で、王に施鍼する場合には避けなければならない部位だったのだ。承泣:眼球と眼窩下縁の中間 攅竹:眉根の辺り 晴明:目頭の少し内側(疲れ目の時揉みたくなるあたり)素人の感覚だと、そういう場所に何かが刺さると考えただけでぞっとしてしまう(笑)。
チャングムは着々と進行しつつある病が、体のある部分に及ぶことを懸念していた。彼女の指示通りに施鍼は行われたが、これでもし万が一のことがあれば、チャングム一人の問題では終わらなくなる。ミン・ジョンホはもとより、中殿や左賛成までもが責任を問われることになるだろう。幸い、王の病状は好転し、食事を摂ることができるところまで回復する。
だが、笑い茸の問題はまだ解決しておらず、チェ尚宮とクミョンは牢からは出されたものの、宮外に出ることも、王の食事を作ることも禁止されてしまう。チェ尚宮は扱いが不当だとオ・ギョモに抗議するが、牢から出すだけで精一杯だったというばかりで、特に手を打ってくれようとはしない。二人は徐々にオ・ギョモに対する疑念を募らせて行く。
チャングムは晴れて宮中に戻ることができ、トック夫婦やヨンセンにも事の真相が明かされる。だが、喜ぶ人々をよそに、しばらく小康状態にあった王の病は更に進行してしまう。突如として目が見えなくなってしまったのだ。そしてチャングムとミン・ジョンホは内禁衛に捕えられる。
オ・ギョモやチョン・ユンスはもとより、中殿も何故危険な場所に施鍼させたのかチャングムを問い詰める。だが、原因は鍼ではなかった。これがこの病の進行だったのだ。茶斎軒でチャングムが治療した患者の一人は、命は取り留めたものの失明してしまっていた。彼女は王が失明することを危惧して一刻も早く正しい治療を行うべきだと主張していたのだが、余りに不吉なことだったため、敢えて失明の危険については言及していなかったのである。そのことを説明し、治療を続けさせて欲しいと懇願するチャングムとミン・ジョンホ。
そして、次のチャングムの言葉は更に人々を驚愕させる。自分自身で王を診脈することを許して欲しいと言い出したのだ。
「許せば病を治せるのか?」「中殿媽媽、畏れながら申し上げます。努力は致しますが、治せると断言はできません」「死罪は免れぬが、少しでも生き延びたいのか?」「この期に及んで、自分がどうなるのかと案じたりなど致しません。中殿媽媽!」
反対するかに思われたオ・ギョモは、何故か判断を中殿に委ねる。何故中殿に判断を任せたのか、その理由をオ・ギョモから聞いたパク・プギョムは呆然とする。オ・ギョモはこれで中殿が失脚することを狙っていたのだ。結果的に王が死ぬことになろうとも、彼らは王子を立てて実権を握れば良いのだから。
処分が決定せぬチャングムとミン・ジョンホはともに縛られたまま夜を迎える。「私のせいでチョンホ様をこんな目に・・・」「構いません。チャングムさんと一緒にいられるなら。一年でも十年でも共にあると誓いましたから」
そしてその夜、再びチャングムの前に立った中殿は彼女に問う。「そちの心はわかっておる。そちの言葉も信じよう。しかし、心と言葉がそちの能力と同じとは限らない。誠実だが能力の足りない者、能力はあるが不実な者、どちらも人の命を害することでは同じだ。前者は不本意ながら、後者は故意に。ただそれだけの差だ。そちの本意ではないにしろ、万が一失敗すれば、私は全てを失うであろう。それでも信じるべきなのか?全てを賭けよと?」

ミン・ジョンホは中殿に向かって、チャングムを信じるべきだと自信に満ちあふれた表情で断言する。「第一に、中殿媽媽は既に両脚を失っておられます。診脈をお許しにならなかったからといって脚は戻りません。ですが、診脈をお許しになり、殿下の病を治せば中殿媽媽は両脚のみならず、両翼を得られるでしょう」「だがそれにはチャングムが必ず殿下の目を見えるようにせねばならぬ」「それが二番目の理由です。医女チャングムは必ず治します」

ついにチャングムは王の診脈を許されるが、ミン・ジョンホは治療が終わるまでの間、牢に繋がれることになった。多くの人々の運命を担い、王の脈を診るチャングム。それはまさに空前にして絶後の出来事であった。
王を診脈したチャングムは、そのまま書庫に籠りきりになってしまい、処方を決しようとしない。気になることがあるという彼女だったが、人々の間に疑惑が広がる。本当は治療することなどできないのではないか・・・。
翌日になって書庫から出たチャングムは、宮中の水や食材を一つ一つ調べ始める。

更に、中殿の許しを得て軍官同行のもとに宮外に出て、王が皮膚病の治療のために使う温泉や、肉や牛乳を賄う牧場の牛までも丹念に調べて行く。一体チャングムは何を知ろうとしているのか・・・。

チェ尚宮はヨリを呼び出すと、王が倒れた前日の処方箋に砒素を書き加えておくように命じる。もし笑い茸がチョン・ユンスの仕業だとすれば、実行したのは間違いなくヨリだ。彼女にチョン・ユンスを陥れる罠をしかけさせれば、背後関係も自ずと掴みやすくなろう。それがチェ尚宮の狙いだったのである。チャングムが病気の原因を突きとめてしまったことで、当初の企みが失敗したばかりか、チェ尚宮の思わぬ逆襲に苦慮したヨリはユン・マッケに尾行されているとも知らず、パク・ヨンシンの家を訪ねてしまう。
パク・ヨンシンが関係していることを知ったチェ尚宮は更にヨリとの関係や、チェ・パンスル商団の薬材廛主となったヨリの父親が何者なのかを調べさせる。オ・ギョモも関係しているのではないかと心配するクミョン。もはやチェ尚宮もそのことを考慮しない訳には行かなかった。
水や食材を調べ続けたチャングムは、最後に茶斎軒を訪れ、チャンドクに自分の見解を話す。そしてチャンドクもチャングムの見方に同意する。
チャングムが示した処方は、防己と紅参であった。チョン・ユンスの処方と異なるのは当然としても、当初彼女が主張した処方とも全く違っている。驚く医官たち。チャングムは一体何を調べていたのだろうか。
だが王の容体はなかなか好転しない。全てを投げ打つ覚悟でチャングムに治療を任せて来た中殿も、目に見える効果が上がらないことに苛立ち、とうとうチャングムを追い出してしまう。王は治りつつあるというチャングムの言葉は、中殿の耳には届かなかった。
再び獄中の人となったチャングム。同じく牢の中からもどかしげに彼女を見つめるミン・ジョンホ・・・。
チャングムが信頼を失ったことで、チョン・ユンスが再び有利な立場に立ち、チェ尚宮とクミョンは再び捕えられることになる。
チャングムの隣の牢に閉じこめられる二人。「大口叩いておきながら・・・」「怖いですか?私は怖いです。ハン尚宮様の汚名を雪ぐこともできずに、このまま死ぬのかと思うと・・・悔しくてたまりません」
チャングムはミン・ジョンホとともに、オ・ギョモによって裁きを受ける。だが、まさに取り調べが始まろうとするその時、長番内侍がそれを押しとどめる。中殿が再びチャングムに治療を行うよう命じたのだ。
チャングムが連れ出された後、王を診察したチョン・ウンベクとシン・イクピルは王の病勢が弱まっていることを確認した。皮膚の症状が完全に消えていたのである。チャングムの処方は正しかったのだ。
人々の注視する中、チャングムは王に施鍼し、按摩をし始める。その按摩は実に一昼夜に及ぶ作業だった。
翌朝、按摩を終えたチャングムは王に身を起こさせ、目を開けてみるように言う。
ゆっくりと開いた王の目に、必死の面持ちで彼を見つめるチャングムが映る。
第46話 「医局長の遺書」

チャングムの治療により、中宗は視力を取り戻す。病名はユンスと同じながら処方が異なった理由を説明するチャングム。一同は感嘆し、オ・ギョモはユンスから医局長の座を取り上げ、自らの保全と巻き返しを図る。病気の真相が明らかになったことから、クミョンとチェ女官長への嫌疑も晴れ釈放されることに。チェ女官長は早速、自分たちを積極的に助けてくれなかったオ・ギョモに詰め寄る。チャングムはヨンセンを通じて、中宗に拝謁。ハン尚宮(サングン)の名誉を取り戻してくれるよう訴えるが……。医局長の座を追われ、身の処し方に思い悩んでいるユンス。チャングムはチョンホと一緒にユンスを訪ねる。今回の件で誤診が明らかになった以上、アヒル事件についてもユンスの証言を得たいチャングム。時を同じくして、チェ一族がユンスの自宅に刺客を送り込む。

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王は無事視力を取り戻した。狐惑病というチョン・ユンスの診断は間違ってはいなかったのだが、症状を引き起こした原因が「金匱要略」に記された内容とは異なっていたのだ。王は雄黄(ウンファン 砒素と硫黄から成る鉱物。古来顔料として使われた他、日本では花火の材料として使われていたこともあるようだ。神仙道の集大成とされる『抱朴子』では何故か「仙薬」として紹介されている)中毒により肝経湿熱を発症し、それが狐惑病と似た症状を見せていたのだ。
雄黄と聞いて一同は顔色を変える。「では、誰かが殿下に毒を盛ったのか?」「誰がそのような恐ろしいことを!」尋ねる長番内侍と中殿にチャングムは落ち着いて答える。「自然でございます」
王が皮膚病の治療のために使っていた温泉には微量の雄黄が含まれていた。王が毎日飲んでいた牛乳はその温泉と同じ地下水を飲んでいた牛から取ったものだったため、王の体に少しずつ砒素が蓄積されて行ったのである。防己には雄黄を解毒する作用があり、紅参には毒を体外に出し、腫れを抑えて抵抗力を上げる効果がある。真因を突きとめたチャングムにしか出せない処方だったのだ。
チャングム卓抜した洞察力と緻密な観察力に、オ・ギョモさえもが目を見張る。だが、この事件は内医正チョン・ユンスの信用を完全失墜させてしまった。オ・ギョモの計画は水泡に帰したのである。
「名は何と申す?」「チャングムと申します」三度王の前で名乗るチャングム。だが、王が自らの人生の岐路に立ち会ったチャングムという名の少女がいたことに気づくのはもう少し先のことである。
オ・ギョモの指示により、チョン・ユンスに代わってシン・イクピルが王を担当し、チャングムは元通り中殿付きとなった。処罰を受けることが確実なチョン・ユンスの表情は硬い。
晴れて釈放されたミン・ジョンホを迎えに走るチャングム。
ミン・ジョンホも獄舎を出る。
獄舎の前で対面する二人。
「命をかけて私を信じて下さいました」
「獄中にいた間ずっと、無性に後悔していました」
ミン・ジョンホが冗談を言っているものと思い、思わず顔をほころばすチャングム。

だが、次のミン・ジョンホの言葉に、チャングムの瞳から止めどなく涙が溢れる。

「ソ内人が危ない目にあうのではないかと、後悔していました」

「こんな事になるなら、済州島や典医監で、攫ってでも逃げるべきだったと・・・阻止すべきだったと骨身に染みて後悔しました。そう考えると、どうかなりそうでした」
「ナウリ・・・」
思わずミン・ジョンホに駆け寄り彼を抱きしめるチャングム。ミン・ジョンホもまた、チャングムを強く抱きしめる。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
チェ尚宮とクミョンも無事釈放される。だが、それははチャングムが宮中においてより強固な基盤を築いたことの副産物でしかない。ヨンノは「おめでとうございます」と出迎えるが、二人にとって到底喜べる状況ではなかった。
また、オ・ギョモにとってもチャングムが王の失明を治療してしまったことは致命的だった。中殿を失脚させるどころか、自分たちの立場が更に危うくなってしまったのだ。苛立ちを抑えきれないオ・ギョモは、ミン・ジョンホが中殿の密命を受けて行動していたことを強い口調で叱責する。
オ・ギョモが追い詰められていることは確かだが、証言や告発すで彼を倒すことはできない。左賛成はミン・ジョンホに対し、早急に何らかの確証を掴むよう指示する。
事件が解決し、狂喜乱舞するトック夫妻のもとにチャンドクが戻ってくる。事情を知らない二人は困った時には姿を見せず、全てが終わってから現れたチャンドクをなじるが、折良くミン・ジョンホと連れだって帰宅したチャングムが彼女に礼を述べるのを聞いてあっけにとられる。
誤診は明かされたが、まだハン尚宮の無実を証明するには証拠が足りない。チャンドクに何か策はあるのかと尋ねられたチャングムは、黙り込んでしまう。
チェ・パンスル邸から押収した地図にあった謎の印は、銀鉱の場所を示したものだった。銀は私的な採掘が禁止されており、官衙を巻き込まなければ私的な商取引などできるはずがない。そして官衙が関係するからには、背後にはオ・ギョモがいるに違いない。だが、銀を私的に売り捌くのは、採掘以上に難しいはずだ。一体取引相手は何者なのか。ミン・ジョンホは部下とともに取引の現場に向かう
銀を買い取りに来ていたのは倭人だった。ミン・ジョンホは敢えて取引の現場を押さえることはせず、倭人だけを捕え、内禁衛将以外には彼らを捕えたことも知られぬよう処理させる。
オ・ギョモは王の治療に功績があったのはチャングムではなくシン・イクピルであると王に伝える。彼はチャングムの功績よりも、法道を無視した中殿の行動に王の目を向けさせようとしていた。そのためには、チャングムがいなくても内医院の医官が王を治療できたことを王に印象づけなければならなかったのである。
だが、オ・ギョモも中殿の配下にある内命婦にまでは手を回すことができない。回復した王の訪問を受けたヨンセンは、王にチャングムと会って話を聞いてやって欲しいと頼む。王もチャングムと話をしてみたいと願っており、快くその頼みを受け容れる。
チャングムは予め硫黄家鴨を使った料理を用意して王に供していた。王もその料理がハン尚宮のものと同じ味だということに気づいており、チャングムの話が硫黄家鴨事件に関わることであろうと予測していた。チャングムはハン尚宮の濡れ衣を晴らし、もう一度彼女の心と遺志を甦らせて欲しいと頼む。
王もまたハン尚宮の料理の美味しさと、食事の時に聞かせてくれた話の面白さを印象深く記憶していた。食べる者を楽しませることは健康につながるものであり、それは料理人の備えるべき徳目であるというハン尚宮の言葉は、今も王の心に生きていたのだ。
だが、王の表情は暗い。「ハン尚宮の恨みを晴らすには、血の嵐を起こさねばならぬ。血塗られたこの玉座で、余は既に何度も血を見て来た。また見よというのか・・・。しかも今回血を見れば、中殿の力が強まり、東宮(王子)の立場は弱くなるだろう。東宮は前妻の子、中殿が力を増せば東宮の脅威となってしまう。子の父親として、一人の女の夫として、余はどうすべきなのだ?」王の問いかけにチャングムは答えることができなかった。
釈放されたチェ尚宮とクミョンは、ヨリを通じてパク・ヨンシンとの和解を図る。奪った財産を全て返還し、過去を詫びる手紙をヨリに託すチェ尚宮。だがその手紙にはパク・ヨンシンを脅迫する内容も書き添えられていた。これ以上彼女が介入してきては、さすがのチェ一族も身動きが取れなくなってしまう。だが、彼女たちにとって最大の問題はオ・ギョモであった。
チェ尚宮は兄とともに直接オ・ギョモに会い、もし自分たちを切り捨てようとするなら、オ・ギョモ自身も無事では済まないことをほのめかす。実際に彼らにはそれだけの力があった。今回はオ・ギョモとは全く無関係なところから発した嫌疑だったからこそ、チェ尚宮が投獄されてもオ・ギョモには何の影響も無かったが、はっきりとチェ一族を切り捨てようとした時は間違いなく巻き添えにされるだろう。
一人苦悩するチョン・ユンス。内医院では医女たちやチョ・チボクまでが彼の誤診に批判的な態度を取る。更にチェ一族もオ・ギョモももはや彼を必要としておらず、むしろ、なまじに裏の事情を知ってしまった邪魔な存在になってしまった。医官としての信用を失っただけでなく、彼は今や命までも失いかねない状態に陥っていた。
案の定、チョン・ユンスに刺客としてピルトゥが差し向けられる。たまたまチャングムとともに彼の家を訪れたミン・ジョンホに見つけられピルトゥは逃げ出してしまうが、チョン・ユンスの命はまさに風前の灯火だった。
チョン・ユンスの家で彼を説得するチャングム。罪のない人が死んだ以上、医官として真実を明かして欲しいと。「考える時間をくれ。頼む。今日は帰ってくれ」チョン・ユンスにとってそれは簡単に決断できることではなかった。・・・そして、チャングムとミン・ジョンホが立ち去った後、チョン・ユンスは一人で何処かに出て行く。
ミン・ジョンホがチョン・ユンスの家にいたと知り、チェ・パンスルは焦る。見張りを付けられる前にチョン・ユンスを始末してしまわなければ、遠からず手出しができなくなってしまうのは間違いない。
だが、チェ・パンスルの命令を受けて再びチョン・ユンスの家に向かったピルトゥは意外な光景を目にする。チョン・ユンスは自宅の庭で首を吊ってしまったのだ。
チェ一族とオ・ギョモにとってこれは願ってもない展開だった。誤診に責任を感じて自殺したとなれば、捜査が彼らに及ぶこともない。硫黄家鴨事件も闇に葬られるだろう。
硫黄家鴨事件の真相を知るものがこの世からいなくなったことを心配するトック夫妻とミン尚宮、そしてチャンイ。だが当のチャングムはさほど焦っていない。何か策はあるのかと尋ねるトックたちに、チャングムはあることを耳打ちする。
安心し切っていたチェ尚宮とクミョンはチャングムに呼び出される。医女の分際で自分たちを呼びつける非礼を叱りつけるチェ尚宮に背を向けたまま、チャングムは母とハン尚宮の柿酢を器に汲み入れ続ける。
「ここは、亡くなった私の母ミョンイと、ハン尚宮様が二人で一緒にどちらかが最高尚宮になったら使おうとお酢を作って埋めた場所です。そして互いに精進を誓い合ったとか。権力に拘らず、醜い争いなどせず、優れている方にいずれは贈ろうと決め、作ったお酢でしたが、ハン尚宮様も母もほとんど使うことはありませんでした。お使いになりますか?」
立ち去ろうとする二人を引き留め、チャングムは彼女たちを呼んだ本当の用件を話し始める。チャングムはチョン・ユンスの遺書を持っているというのだ。

 

中殿にその遺書を渡す前に、二人が母とハン尚宮に詫び、自らの罪を明かす時間を与えるというチャングム。本当に遺書があるとしたら、チェ尚宮とクミョンが生き延びる道は自白することしかない。「中殿媽媽の呪いの札の時、チョン尚宮様のお情けが仇になったことは知っております。ですが、猶予を差し上げましょう。今回は証拠がございます故。心から、懺悔して下さることを願って時間を差し上げるのです」
チェ尚宮から報告を受けたオ・ギョモはチェ・パンスルも交えて対策を練る。だが、チェ・パンスルは状況から判断して遺書の話はチャングムのでっち上げと見る。
だが、オ・ギョモとパク・プギョムは万が一に備えておく必要を感じていた。チェ一族の巻き添えを食う訳には行かない。
チェ尚宮は毎朝早くから中宮殿に参じ、中殿の行動を何一つ見逃すまいとするが、中殿には早朝からチャングムが付き従っている。チェ尚宮にとって毎日が恐怖の連続であった。
一方、パク・プギョムはユン・マッケに命じてトックの家に物盗りが入ったように見せかけてチョン・ユンスの遺書を探させる。
だが、ユン・マッケの手下が手に入れて来たのはかつてトックが妻に宛てて書いた恋文だった。
オ・ギョモはユン・マッケの姪、ヨンノからチャングムとチェ尚宮との関係を探らせようとする。ただ有力者に取り入ろうとしてきただけのヨンノも、今や陰謀のただ中に巻き込まれていた。
毎朝の訪問を終え、中宮殿を出るチャングムとチェ尚宮。憮然としたチェ尚宮にチャングムが言う。「私が持っていないとでもお思いですか?」
クミョンはヨンノが邪魔な存在になってきたことに気づいていた。遺書だけなら詳しい状況はわからないが、ヨンノは全てを知っている。
ユン・マッケはヨンノがかつて盗み出したミョンイの遺書のことを探り出して来ていた。全ての背景を知ったオ・ギョモもまたヨンノの重要さに気づく。チョン・ユンス亡き後、全ての鍵を握るのはヨンノなのだ。
チャングムはクミョンの部屋を訪れて、内人の時代に戻って話をさせて欲しいと頼む。「ねえ、クミョン。お願い、罪を認めてちょうだい。私にあなたを許せるようにしてちょうだい。あなたは一族の繁栄より、自分の誇りを貫く人だったじゃない」「お前に、私の苦しみの何が解るというの?」「違ってる?私の言ってること?違うなら、何故ハン尚宮様が教えていらしたのと同じやり方で水刺間の女官たちを教えているの?お願い。心で詫びているのなら、行動で示して。ねえ、クミョン、私あなたを憎みたくないの。憎むことは愛すること以上に辛いから」
「私は、憎まざるを得なくて辛かった。愛しても報われなかった。あなたのせいよ。そしてミン・ジョンホ様のせい。私の誇りを踏みにじったのはあなたよ」「それは言い訳です。誇りは踏みにじられても消えはしない。自分で消さない限り」「帰って!」

「・・・最高尚宮様。私たち、水刺間で共に学んだ昔には、もう戻れないのですね。遺書はございます」

チャングムが去った後、クミョンは一人で涙にくれる。
チェ・パンスルとチェ尚宮はヨンノに大金を渡し、しばらくの間姿を消すように命じる。このまま残って証人として尋問を受けるか、大金を持って姿を消すか。彼女に選択の余地はなかった。
漢陽を去る前にユン・マッケにだけは挨拶をさせて欲しいと、彼女はチェ・パンスルが付けた供の男とともにユン・マッケの家に向かう。だが、そこにはパク・プギョムが彼女を待ち受けていた。パク・プギョムはヨンノに書状を渡し、明日の朝義禁府に出頭するように言う。そこでチャングムとチェ一族に関わる全てを告白すれば、彼女だけは助けてくれるというのだ。チェ一族が宮中から除かれれば、彼女には提調尚宮になる機会さえ生まれる。彼女の叔父ユン・マッケもそうして奴婢の身分から出世した男だ。
ヨンノの心は揺れていた。一体どちらにつくべきなのか。どうすれば助かるのか。
そしてその夜、チャングムの部屋にヨンノが現れる。
ヨンノの運命は?そしてチョン・ユンスの遺書とは?

第47話 「口封じ」

自殺した医局長ユンスの遺書の存在を巡り、疑心暗鬼のチェ一族とオ・ギョモ。チェ女官長は意を決してチャングムを訪ね、ミョンイの墓前に案内してもらう。一方、ヨンノの心変わりに気付いたチェ一族はオ・ギョモ側の意図を知り、ヨンノをいち早く探し出す。ついにオ・ギョモへ反旗をひるがえすチェ一族。とくにチェ女官長はクミョンとチェ一族を守るため、あらゆる火種を消しにかかる。中宗は医局長の遺書をチャングムが持っていると聞き、内侍府(ネシブ)の長官に入手を命じる。また、チェ女官長から聞かされた皇太后もチャングムを呼び出し遺書のありかを問い詰める。チャングムは真実を皇后に打ち明けることに。ヨンノの告発により、免職処分になったオ・ギョモ。そんな時、ヨリがユンスの遺言を役所に届け出た。あらためて取調べを受けるオ・ギョモ。そこへ内侍府(ネシブ)の長官が現われ、王命を伝える。アヒル事件の関係者を再度、全員取り調べよ、とのことだった。

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ヨンノを送り出したチェ尚宮と兄パンスル。これで証人はいなくなった。だが、チョン・ユンスの遺書の問題は手つかずのままだ。以前と異なり、ミン・ジョンホの他に中殿や左賛成を後ろ盾とするチャングムに危害を加えれば、却って自分の首を絞めることになりかねず、白を切り通すにも遺書があったのではどこまで通用するかわからない。手詰まりの状況に二人は苛立つ。
ヨンノはチャングムに助けを求めていた。チェ尚宮に命じられるまま、宮中を去り一生人目を気にして生きることもできず、かといってオ・ギョモを信用することもできない彼女は、チャングムを頼ったのだ。チェ一族とオ・ギョモの陰謀を明かす代わりに、自分を提調尚宮に任命するよう中殿に頼んで欲しいというヨンノ。
だが、チャングムは彼女の頼みを断る。「私はそんな取引はしません。」「何故?どうして?私が必要でしょ?よく考えてよ!」「証言がなくても真実を明かすことはできます。助かりたいとお思いなら、全てを自白し、許しを請うしかありません。事実を全て話して下さい」「そんな!私は宮中を追われてしまう!」
チャングムの助力を得ることができず、途方に暮れて夜道を歩み去るヨンノ。
そして一人眠れぬまま夜を過ごすチャングム。
夜明け前、意外な人物がトック夫妻の家を訪れる。チェ尚宮だった。チェ尚宮はチャングムに、ミョンイの墓に連れて行って欲しいと頼む。
明け遣らぬ山中、ミョンイの墓前に跪き、ミョンイを死なせたことへの後悔を語る。「ミョンイとペギョンと私はまだ幼い八つの時、一緒に宮中に上がった。口数の少ないペギョンとはそれほど仲は良くなかったけど、ミョンイとは仲が良かった。好奇心旺盛な子であれこれと質問してきて、私の方が逆に教わったことも多かった。それなのに私はその友を手にかけた。この世に生まれてあれほど辛かったことは無かった」
「祈っていたのに。大事な友を手にかける、そのような恐ろしいことをしなくても済むようにと。祈ったわ、天地神明に、そしてこの世の全てに!でも私はやったの。許されぬことを。悪かったわチャングム。どうか許して。許しておくれ。ミョンイのお墓の前で土下座して謝るわ。だから許して。ペギョンとミョンイのためにお前がやれと言うことならどんなことでもしよう。だから許して。どうか許しておくれ、この通り」
「母に許しを請うチェ尚宮様のお心を信じます。今日までお辛かったであろうチェ尚宮様のお気持ちも解ります。どうぞ義禁府に行って下さい。そして、全てを打ち明けて下さい」
だが、それはチェ尚宮にとって絶対に受け容れられないことだった。これまで後悔と自責の念に苛まれながら生きてきたのは、チェ一族を守るためだったのだから。「それは・・・それは許しておくれ。家だけは残しておくれ」
「反省とは自らの行動に責任を取ることでございます。自分がしたことの過ちを悟り、犯した罪の償いをし、二度と同じ過ちを繰り返さないことです。自分の罪を世間に明かしもせず、何も失うことなくただ許しを請うだけでは、それでは反省とは言えないのでは?」「こうして土下座しているではないか!この私がお前の前で!」「義禁府にお行き下さい」
そしてチャングムはチェ尚宮を残して立ち去る。
トック夫妻はチェ尚宮に連れ出されたチャングムの身を案じて、木ぎれを手に駆けつけていたのだが、途中で彼らに出会ったチャングムは二人に礼を述べると打ち沈んだ表情で家へと向かう。
一方、ヨンノはチャングムに会った後、ユン・マッケの家には戻らず、手頃な酒幕(簡易な宿泊施設を併設した居酒屋のようなもの)に姿を隠していた。チェ・パンスルはヨンノが姿を消したと知り、彼女の行方を捜させる。
意を決したヨンノは酒幕を出て義禁府に向かう。その門前ではパク・プギョムが彼女を待っていた。だが、彼の目の前でヨンノはピルトゥたちに拉致されてしまう。
オ・ギョモがヨンノを買収しようとしていたことを知り、チェ・パンスルは先手を打つことを決意する。宮中に残りたい一心でやったことだと必死に謝罪するヨンノだったが・・・。
ミン・ジョンホは銀の密売の現場で捕えた倭人の中に、役人が混じっていたこという報告を受ける。オ・ギョモは倭国と密貿易の契約を交わしていたのである。
時を同じくして、オ・ギョモに対するチェ・パンスルの反撃が開始されていた。ヨンノを使って、過去のオ・ギョモの不正を告発させたのである。彼はかつて賄賂の見返りに受験者を不正に合格させていたことがあった。チェ一族の関与していない事件に関わるものだったため、彼らに罪を押しつけることもできないオ・ギョモは、大妃に相談を持ちかけようとする。
だが、チェ尚宮は先回りして面会を断らせ、オ・ギョモの不正が問題になっていることを大妃に伝え、彼を切り捨てるよう勧める。前后の没後、彼女の子である東宮の立場を守ることに尽力してきた彼の功績を考え、大妃は難色を示す。だが、彼の内医院を巡る不手際で中殿の実権が増したことも確かであり、また彼が著しく道徳性を欠いた人物である以上、東宮の将来を託すことも憚られる。
役割を終えたヨンノは、チェ・パンスルから金を渡され、ほとぼりが冷めるまでの間という約束で漢陽を離れることになる。導かれるまま人気のない山中の道を歩いて行くヨンノの耳に、群れ騒ぐ烏の鳴き声が妙に不吉に響く。・・・彼女が再び宮中に戻る日は永久に来なかった。
ミン・ジョンホからヨンノがオ・ギョモの悪事を告発したと聞いたチャングムは、彼女の身が危ないことに気づく。昨夜のことをチャングムから聞いたミン・ジョンホは、部下にヨンノを探すよう命じるのだが・・・。
司憲府で取り調べを受けるオ・ギョモ。彼は身に覚えがないと司憲府の役人に食ってかかり、証人と直接話をさせろと息巻く。だがその最中、ミン・ジョンホによりヨンノが殺害されたことが知らされる。無論、真っ先に疑われるのはオ・ギョモだ。ヨンノを殺せば、その嫌疑もオ・ギョモに向かうことまでチェ尚宮たちは計算に入れていたのである。
チェ尚宮はさらにこの状況を利用してチョン・ユンスの遺書の問題も片づけようとする。あの遺書が中殿の手に渡るようなことになれば、間違いなくそれを利用して王子を擁護する勢力の弾圧が始まるだろう。そのことを大妃に話し、中殿よりも先に遺書を手に入れるよう説得したのである。
ヨンノが死んだとの報せを聞き、ヨンセンは彼女のために涙を流す。
何かにつけていじめられたセンガッシ時代、仲が悪いなりに共に日々を過ごした内人時代。彼女の脳裏にヨンノの笑顔が甦る。
「あれほど憎い子だったのに・・・。大嫌いだったのに・・・」「チャングムも自分の責任だと言ってました」ヨンセンを慰めるうちに、ミン尚宮はついチャングムがチョン・ユンスの遺書を持っていること漏らしてしまう。
ヨンノを殺害までする必要はなかったのではないかとクミョンはチェ尚宮に問う。一度裏切った者はまた裏切るものだと冷たく言い切るチェ尚宮だったが、彼女がヨンノを殺させた最大の理由は他にあった。チョン・ユンスは当時のクミョンと面識がなく、ヨンノさえいなくなればクミョンが関係していたことを知る者はいなくなる。そうなれば、例えチェ尚宮が罪に問われることになってもクミョンは助かると考えていたのである。
「私もお前のように、やりたくないと散々抵抗したわ。当時の仁粋大妃様の料理に毒を盛れと命令されて、私は宮中から逃げ出した。兄上に引きずられるように戻ったけれど、何日も飲まず食わずで抵抗したわ。でも結局やらざるを得なかった。そう、チェ一族あってこその私。この期に及んで一族を裏切るなどということは許されない。叔母上の言う通り、兄上の言う通り、やるなら完璧にやるべきだった。私の体の隅々に残る感情や情けは捨てるべきだった。今になってわかった。やるからには火種を一切残さないように完璧にやらなければならぬと仰った叔母上の言葉の意味が。私は一族を守ることに失敗したのかも知れない。
「だが、お前は生き延びなさい。私に何があっても、何の力もない尚宮として宮中の隅に追いやられることがあっても、お前は一族の跡を継ぐ者を育て、また一族を興すのだ!私の気持ちがわかったなら、さっきのような情けはきれいさっぱり捨てなさい。・・・わかったね。ためらってはならぬ!」
王の訪問を受けたヨンセンはチャングムの願いを聞き入れてやって欲しいと頼む。だが、王は決定的な証拠のないままオ・ギョモやチェ尚宮を処断してしまえば、左賛成の勢力や、チャングム自身を却って危険な立場に置くことになると苦しい心中を語る。その話を聞いたヨンセンはチャングムがチョン・ユンスの遺書を持っていることを話す。
翌朝、ミン尚宮はそのことをチャングムに伝える。今度こそ上手く行くかも知れない、と。だが、チャングムの表情は冴えない。
大妃はチャングムを呼び出し、チョン・ユンスの遺書を渡すよう迫る。だがチャングムははっきりと「遺書はない」と答えるのだった。
チャングムの真意は測りかねるものの、大妃に遺書が存在しないことを明言した以上、証拠として遺書を持ち出すことはできない。そう判断したチェ尚宮はヨリを使って手を打とうと考える。
大妃殿から下がる途中で、チャングムは長番内侍に呼び止められる。彼は王の命令を受けてチョン・ユンスの遺書を受け取りに来たのだ。だが、チャングムはやはり遺書はないと答える。その代わり、中殿に全てを話すと言うのだが・・・。
中殿に全てを打ち明けたチャングムは、その足でミン・ジョンホと共にパク・ヨンシンに会いに行く。一体二人は何をしようとしているのか・・・。
チェ尚宮はヨリに偽造したチョン・ユンスの遺書を司憲府に提出させた。科挙の不正の件で罷免されたオ・ギョモはこの遺書で更に不利になってしまう。焦ったオ・ギョモは王子に面会しようとするが、既に彼を切り捨てることを決意した大妃が既に手を回しており、面会を許されないまま司憲府に連行されてしまう。

偽造された遺書には、誤診を隠し、料理のせいにせよと指示したのはオ・ギョモであると書かれていた。追い詰められたオ・ギョモは、自分が関係した部分は巧妙に隠し、当時の事情や、ミョンイやハン尚宮の死に関わる全て話してしまう。

困惑する司憲府の面々。だが、長番内侍によって伝えられた王命により、状況は一変する。硫黄家鴨事件に関わった者全員を集め、事情聴取を行えというのである。

チャングムが何の動きも見せないことに、チェ尚宮とクミョンは安心していた。遺書の件はやはり仲間割れを狙った嘘だったのだろうと。
チェ尚宮は調査のために司憲府の呼び出しを受ける。そのことを伝えに来たユン・マッケに彼女は言う。「私たちを裏切りオ・ギョモ様についたせいで、罪もない姪を亡くして気の毒だわね。私たちの言うことを聞いて都を出ていればこんなことにはならなかったものを!自分の愚かさを恨むがいい!」
言葉もなく立ちつくすユン・マッケ。
当時の関係者としてミン尚宮も調査に呼び出される。彼女を連れに来たチェ尚宮とクミョンの堂々をした態度を、ヨンセンとチャンイは不審に思う。糾弾されるのはオ・ギョモではなくチェ尚宮のはずだったのだ。一体何が起こっているのか・・・。
内医院には当時の内医正も、チョン・ユンスもいない。代わりにチョン・ウンベクが取り調べに参加することになる。そして、もう一人内医院から参加するのはチャングムだ。だが、チャングムはどこかに姿を消してしまっていた。
何故この事件にチャングムが関わるのか、不思議がるウンビやチョドンたち医女。チャングムを探していたシンビから、彼女たちは真実を知らされる。チャングムはかつて水刺間の内人であり、硫黄家鴨事件に巻き込まれて官婢になったのだということを。
チャングムの居場所は見つからず、証人の一人を欠いたまま硫黄家鴨事件の再調査が始まった。オ・ギョモは硫黄家鴨が無害であることを証明するために試食を命じられたホンイが発病したのは、ヨンノが事前に食べさせた鮑料理にあったことを告げ、チェ尚宮を糾弾する。これにミン尚宮も同調し、チェ尚宮の陰謀であったと主張する。
だが、当時チェ尚宮はハン尚宮の命令で太平館に禁足されていたのである。彼女が手を下したという証拠はどこにも残っていない。むしろ、関係できるはずのない事件に、何故無理矢理巻き添えにしようとするのかと逆にオ・ギョモを問い詰めるチェ尚宮。オ・ギョモもはっきりした証拠を握っている訳ではなく、反論することができない。
チェ尚宮の勝利に終わるかに見えたその時、遅れて入室して来た人物に誰もが目を見張る。
それは、チャングムとミン・ジョンホに伴われたチョン・ユンスその人だったのである。
ついにに宮中にはびこる悪が裁かれる日が来たのだ。

第48話 「チェ一族の崩壊」

チョンホにともなわれ姿をあらわした医局長ユンス。あわてたオ・ギョモとチェ女官長は互いに罪をなすりつけ、その結果、これまでの悪事を暴露しあうことに。報告を受けた中宗は今回の件を左賛成に一任。チョンホはパンスルの屋敷を捜索し、パンスルを捕らえる。一同の取調べが始まる直前、チェ女官長が逃亡を図る。宮中内に潜み、尚宮(サングン)たちに助力を求めるが、応じるものは誰一人いなかった。チャングムはチェ女官長に自首するよう勧め、チェ女官長は今一度ミョンイの墓前に向かう。取調べが終わり、それぞれの刑が決まった。クミョンはチャングムにあるものを手渡す。刑に服するクミョンに、最後の声をかけるチョンホ。答えるクミョン。中宗は、自分の病を明かし、オ・ギョモらの悪行も明かしたチャングムにほうびを遣わし、チャングムに願いをたずねる。チャングムには三つの願い事があった。

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チョン・ユンスはミン・ジョンホの手で匿われていた。何者かに命を狙われている彼を守ると同時に、裁きを受け全てを明かす心の準備をさせるためだった。 
チョン・ユンスが現れた以上、遺書が偽物であることはごまかしようがない。嘘をつき通すことの出来なくなったヨリは、チェ尚宮の命令で偽造したものであることを白状する。嵩にかかってチェ尚宮を責め立てるオ・ギョモ。 
しかし、チョン・ユンスはオ・ギョモがチョ・グァンジョを陥れるためにチェ尚宮と共謀したことを証言する。
更にホンイが呼ばれ、チェ尚宮が硫黄家鴨の試食の場で何をしたかが明かされる。それでもチェ尚宮は、太平館に禁足処分を受けていて裏工作ができる状況ではなかったという一点を拠り所に、自らの潔白を主張する。

突然現れたパク・ヨンシンのスバル尚宮の証言によって、チェ尚宮の主張は崩れる。彼女に外出を許可したことを証言したのだ。

パク・ヨンシンはチャングムとミン・ジョンホの説得を受けて全てを明らかにすることを承諾していた。彼女はスバル尚宮に証拠の手紙を託し、自らは出家したという。

その手紙はかつてホンイが鮑料理を食べさせられた時、彼女がチェ尚宮から預かってパク・ヨンシンに届けたもので、硫黄家鴨をホンイに食べさせるようにとの指示が記されていた。そして、その取り調べを担当したのがオ・ギョモだ。
事ここに至ってなお自らの潔白を主張する二人。チェ尚宮はチャングムが逆恨みをして仕組んだことだまでと言いつのる。
チェ尚宮を見るチャングムの目には哀れみの色すら浮かぶ。もはや二人の話を信じる者はない。
王の判断が下されるまでの間、チェ尚宮は内侍府の管理下で監禁され、オ・ギョモは自宅に軟禁されることとなった。「今に見ておれ」という言葉とは裏腹に、チェ尚宮の表情にも恐怖の色が浮かぶ。
報告を受けた王に対し左賛成(チャサンソン)は、自らの手で悪事の全貌を明かさせて欲しいと願い出る。一方、司憲府の長である大司憲は宮中に再び混乱を招くよりも、義禁府の中だけで終わらせるべきだと主張する。
王は左賛成の申し出を容れ、左賛成を推鞠官(チュグクゴァン 臨時官職で、他の官庁に優先する捜査権と裁判権を持つ。硫黄家鴨事件の際にはオ・ギョモがこの職についた)に任命する。
取り調べの準備が始まる。チェ尚宮とオ・ギョモに改めて捕縛命令が下され、チェ・パンスル商団の全財産は没収されることになった。
そして、クミョンの元にも軍官がやってくるが、彼女は自分で行かせて欲しいと縄をかけられるのを断る。
水刺間の出口にはチャングムが立っていた。チャングムを睨め付けるクミョン。
チャングムはその視線を受け止め、黙ってクミョンを見送る。
捕えられ、泣き叫ぶ妻と息子の声に送られて私邸から連れ出されるオ・ギョモ。だが、彼にはまだどこか余裕があった。チョン・ユンスの証言以外に硫黄家鴨事件への関与を証拠立てるものはなく、まだ逃れる術はあると考えていたのだ。
一方、チェ・パンスルは必死に逃亡を図る。単身、捕吏たちを相手に獅子奮迅の働きを見せるピルトゥだったが、所詮一人で防ぎ切れるものではない。結局、チェ・パンスルこそ何とか屋敷を脱出することができたものの、チャン執事ら腹心の部下たちは皆捕えられてしまった。
チェ・パンスルは単身郊外の渡し場から舟での逃亡を図る。だが、追っ手が迫ってくるというのに船頭は一向に舟を出そうとしない。それもそのはず、舟の中に座っていたのは船頭になりすましたカン・ドックだったのだ。そのままカン・ドックに押さえつけられ、ついにチェ・パンスルは捕えられる。
チェ・パンスルを捕えに現れたのはミン・ジョンホだった。カン・ドックはチェ・パンスルが逃亡を図ると見て、予めミン・ジョンホとともに渡し場で待ちかまえていたのである。
裁きの場で、オ・ギョモは左賛成に抗議するが、硫黄家鴨事件はオ・ギョモを捕えるきっかけに過ぎなかった。成均館の学田での横領、チェ・パンスル商団との癒着、そして倭寇との密貿易。それらの罪の証拠が全て左賛成とミン・ジョンホに握られていたのだ。事ここに至ってオ・ギョモは左賛成の本当の狙いを悟る。彼にはもう逃れる術など無かったのだ。
その取り調べの最中、内侍府からチェ尚宮が厠に行くと偽って逃げ出したことが知らされる。
追捕の軍官たちは宮外に向かうが、チェ尚宮は宮中の氷室に隠れていた。わずかな可能性に賭けて、彼女は大妃の至密尚宮を呼び出し、大妃に会おうと試みる。
だが、大妃はチェ尚宮に会うどころか、義禁府に報せるよう命じる。至密尚宮が義禁府に報告する前に氷室を訪れてチェ尚宮に自首を勧めたのは、かつて世話になったチェ尚宮へのせめてもの温情であった。
氷室を出たチェ尚宮は養蚕室にいた尚宮をつかまえ、大殿の至密尚宮に連絡を取って欲しいと頼む。だが、彼女は大殿に向かうどころか、近くを通りかかった内侍にチェ尚宮がいることを伝えてしまう。再び権力を取り戻したら見ているがいいと嘯くチェ尚宮だったが、もはや宮中に彼女の居場所がないことは、彼女自身にもよく解っていた。
チェ尚宮はキムチ倉庫に潜んで策を練るが、もとより策などあるはずがない。「ここで終わるチェ一族ではないわ!それも私の代で終わってしまうとは!いいえ、いいえ!落ち着いて考えなければ!どうすればいい?さあ、考えるのよ!」
だが折悪しくキムチを取りに来た内人がチェ尚宮の声に気づき、ミン尚宮に報告する。
「そうよ、どうせこのまま死ぬのなら殿下の前で死のう」立ち上がったチェ尚宮の目の前にチャングムが立っていた。ミン尚宮からチェ尚宮がいると知らされてやって来たのだ。
殴りかかろうとするチェ尚宮の腕を取り、チャングムは静かに話し始める。「私は時間も機会も差し上げたはずです」「機会?何の機会?死ぬ機会?」「いいえ。ここ宮中から誉れ高く去っていく機会です」「何だって?誉れ?」
「どうしてこのような道を選ばれるのですか?一体何のためにこのように悲惨で恐ろしいことをなさるのですか?何が提調尚宮様をここまで駆り立てるのですか?」「富と権力と一族の名誉だ!」「それがご自分より大事なのですか?ご自分のお命や、名誉よりも大事なのですか?ご自分の名がこの宮中にどのように残るか、お考えになりましたか!?」
「お前が勝てば私の名も命も穢れて残るだろう。だが私が勝てば誉れ高く残る。それが富。それが権力。一度手にすればお前もわかる。だからこそ何が何でも生き抜いて行くのだ」「私はその握りしめた手を開いて差し上げたい。提調尚宮様、握りしめたその手を一度開いてみて下さい。あるのは富でも権力でもなく、何の罪もない人の血と涙だけです!提調尚宮様の手は血塗れです!」
「既に殿下のご命令により、チェ・パンスル様の全財産は没収され、兄上様も、オ・ギョモ様も、クミョンも先ほど捕まりました。提調尚宮様が自首なさらないと、クミョンが全ての罪を背負うことになるのです。ハン尚宮様は私を救うため、ありもしない罪を背負われました。その想いは提調尚宮様もきっと同じはずです。提調尚宮様にも人の情けが残っていると信じています。自首なさって下さい」そう言って立ち去るチャングム。
クミョンが罪を負うことになると知り、チェ尚宮の心は揺れる。「クミョン・・・クミョン・・・お前に罪はない」
キムチ倉庫の外にはミン尚宮とチャンイが待っていた。通報すべきだというミン尚宮とチャンイ。だがチャングムはチェ尚宮が自首すると信じて二人を止める
しばらくの後、チェ尚宮はキムチ倉庫を出る。その後ろ姿を見送るチャングム。
チェ尚宮はやつれ果てた様子で何処かへと歩いて行く。かつてハン尚宮やチョン尚宮が彼女に言った言葉を反芻しながら。「・・・あなたね。あなたよ!」「違うわ」「あなたよ。ミョンイも、私も、チャングムまで・・・死に追いやったのは誰?あなたよ!」

「チェ尚宮!あれほど言い聞かせたのに!やはりお前は天に逆らわずにはいられなかったのだね!天に逆らって・・・!」

それはチョン尚宮の言葉だ。

チェ尚宮はミョンイの墓前に来ていた。「・・・あなたを許せない、ミョンイ。見ぬふりをして欲しかった。何故気味尚宮様に話したの?何故あれを見てしまったの?よりにもよってあなたが見てしまうなんて・・・娘まで宮中に送り込むなんて・・・」
「しぶとい人ね。呆れるわ。何百回、何千回も恨んだわ。あの時あなたが見なければ、と。絶対に見て欲しくなかった。友達のあなただけは、あんな陰謀に巻き込みたくなかったのに。もし私があなたに生まれて、あなたが私に生まれていたら運命は違っていたの?あなたやペギョンが我がチェ一族に生まれていたとしたらどういう運命を辿ったのかしら?知りたいわ。知りたくてたまらない」
「だから私、こうしてあなたのところに来たの。何もかもあなたから始まったんだもの。ペギョンが死んだのは私のせい。でも最高尚宮にもなったし、私に仕返しもできたし、あなたの娘のおかげで幸せに過ごせた。悔いはないはずよ」
「でもあなたは、私のせいであんな酷い目にあわされたのに、私に恨みをぶつけることもできずに死んだ。私が許しを請うとすれば、それはあなたにだけ。お願いよ、許してちょうだい。こんな家に生まれた私をどうか許すと言って。家と一族を捨てられなかった私を許してちょうだい」
「一族のために私にあんなことをさせた叔母を許してあげて。その先代の叔母も、そのまた先代も、そのまた先代の叔母も・・・。そしてその地位を利用した我が一族を許してちょうだい。お願い、許してちょうだい」
チェ尚宮の足元に、ミョンイの墓から小さな石が転がって落ちる。
「許してくれないのね・・・」
「私これから自首するわ。許しを請うためではなく、我が一族の最後の火種を絶やさぬために。クミョンのために。あなたが自分の火種を生かしたように、私もそうしてみるわ。私の戦いはまだ終わってないの」チェ尚宮はミョンイの墓から立ち去る。
自分たちの運命を知らなかった幼い頃。ペギョンとミョンイと三人で駆け回っていたあの頃。もう幸せな日々は帰って来ないのだ。
山を下りる途中、チェ尚宮は松の木に引っ掛かった赤いテンギに目を止め微笑む。
別人のように無邪気な笑顔を浮かべて、何とかそれを取ろうとするチェ尚宮。
幼い頃、木に登ってテンギを取ろうとしたあの日のように。
だが、チェ尚宮は崖で足を滑らせてしまう。
何とか木の枝に掴まり落下することは免れたものの、上に登ることができない。

あの時も、テンギを取ろうとして木に登ったものの、体勢を崩して枝につかまったまま降りられなくなったのだ。「恐いよう。どうすればいいの?」「大丈夫。手を離して飛び降りて恐くないから」「大丈夫よソングム。テンギはいいから。受け止めてあげるから手を離して飛び降りて」ミョンイとペギョンがソングムを呼ぶ。

手を離せばあの時のように二人が受け止めてくれるのだろうか。もう一度三人で笑い合えるようになるのだろうか。
彼女は、長い間握りしめたまま開くことのできなかった手を開く。ミョンイとペギョンという二人の友が待っている場所に戻るために。
誰のものとも知れぬ赤いテンギが青い空を舞う。
チャングムはミン・ジョンホから母の墓のある山でチェ尚宮が死んだと知らされる。その胸中には複雑な思いが去来していた。
非業の死を遂げたチェ尚宮に同情するミン尚宮とチャンイ。だがヨンセンはそんな二人を叱りつける。チョン尚宮とハン尚宮を死なせ、チャングムを苦しめ、挙げ句の果てにヨンノまで手にかけたチェ尚宮。ヨンセンにはヨンノは許せても、チェ尚宮を許すことはできなかったのだ。
獄中で慟哭するクミョン。チャングムは獄舎の物陰に佇んだままその声を聞く。かつての自分と同じようにクミョンも師であり家族であった人を喪ったのだ。
関係者の処分が決定した。オ・ギョモとパク・プギョムは罷免され、それぞれ黒山島と済州島に配流。チェ・パンスルは20回叩かれた上鉱山の奴婢として追放。そして、クミョンは罷免、チョン・ユンスとヨリは医員の資格を剥奪した上で罷免とされた。
笞刑を受け傷ついた体で鉱山に向かうチェ・パンスル。だが、彼は目的地に辿り着くことなく力尽きてしまう。権勢を誇った男の、孤独な最期であった。
クミョンは宮中を去る前、一族最後の跡継ぎであるサリョンにチャングムを呼びに行かせる。
チャングムを四阿に呼び出したクミョンは、チャングムに母の遺書を手渡す。
「お母様があなたに遺した手紙よ。叔母様に燃やせと言われたけれど、でも燃やせなかった。それが私。一族の一員としては迷いを捨てきれず、かといって自分の意志を貫くこともできず、心から自分を信じることもできず、心から自戒することもなく、曇りのない才能を持つこともなく、曇りのない真心を持つこともなく、ひたむきな想いを寄せられることもなく、ひたむきに恋に生きることもできず・・・」
かつての友を見送るチャングム。クミョンはもう彼女と目を合わせようとはしない。
故郷への道を一人辿るクミョンの目の前に、ミン・ジョンホが立っていた。「申し訳ないと・・・それしか言う言葉がありません」
「また生まれ変わっても、その言葉だけは聞きたくありません」ミン・ジョンホの謝罪は、クミョンにとっては拒絶であった。二人の間には常に超えることのできない壁があることを噛みしめて、彼女は去っていった。
トックの家では芸人まで呼んで賑やかに宴会が催されていた。チャングムがやっと積年の苦しみから解放されたことをトック夫妻が祝っていたのだ。
その喧噪から離れ、しみじみと語り合うチョン・ウンベクとチャンドク。「あんなに反対なさっていたのに嬉しそうなお顔!」「そりゃあ反対したさ。復讐することで相手と同じ人間になってしまうこともある」「でも、チャングムは違いましたね」「ああ、あの子は大したものだ」「ええ、全くです。復讐と医術どどちらも極めろと言ったら本当にやるとは」
王の病を治療したことがきっかけでオ・ギョモたちの悪行も明らかにすることができた。これは紛れもなくチャングムの功績である。王はチャングムに褒賞を与え、更にチャングムのかねてからの望みを叶えてくれるという。
悪戯っぽく微笑むミン・ジョンホ。どうやら彼が王に話してくれていたらしい。
チャングムはおずおずと三つの願いを王に伝える。一つ目はハン尚宮の身分回復。王自身もそうすべきであると考えていたため、一も二もなく聞き入れる。
二つ目はの願いはチャングム母ミョンイの身分回復だった。ミン・ジョンホを除き、その場にいた誰もがチャングムが水刺間の宮女の娘だったことを知って驚く。そして彼らはチェ商宮がチャングムを追い出そうとしていた理由を知る。宮中を追われてからチェ一族の手で命を落とすまでの経緯を聞き、王はミョンイの身分回復を約束すると同時に、宮女が宮女を私的に処罰する悪習を禁じてしまう。
残る願いはあと一つ。だがチャングムはなかなかそれを言い出すことができない。
水刺間には普段通りの日常が戻りつつあった。ただ一つ、最高尚宮の座が空席になったことを除いて。一体誰が次の最高尚宮になるのか気にするミン商宮とチャンイの前に意外な人物が姿を現す。
それはチャングムだった。ついこの間まで医女だったチャングムが最高尚宮として現れたことに驚く内人たち。チャングムは落ち着いた様子で王の食事の用意を命じる。第十五代水刺間最高尚宮、ソ・チャングム。正式に最高尚宮が決められるまでの数日間、臨時の措置ではあったがチャングムは母の願い通り最高尚宮になったのだ。
一方、内医院ではチョン・ユンスに代わってシン・イクピルが御医に命じられ、チョン・ウンベクが大妃と中殿を担当することとなった。自らの傲慢さが生んだ誤診で出世の道を絶たれていたシン・イクピル。病に冒され人生を放棄していたチョン・ウンベク。内医院にも新たな時代が訪れつつあった。
だがそういったこととは関係なく、ウンビら医女たちの気分は複雑だった。医女としては彼女たちよりも目下に当たるチャングムが、突如水刺間最高尚宮になってしまったのだから。「なんて呼べばいいのかしら。目上のように接する自信がないわ」「心配しないで。チャングムはそんなこと気にしないわよ」屈託なく笑うシンビ。口ではそう言いながらも、チョドンとチョボク、そしてウンビもチャングムのことを喜んでくれていた。
王に食事を出すチャングム。長い間料理から離れていたにも関わらず、彼女の才能は健在だった。王は満足げにそれを食し、料理の美味しさと、彼女が苦難に負けることなく真っ直ぐで聡明に育ったことを賞賛する。競合の時も今回も、チャングムから学ばせてもらったとまで言う王にチャングムはただ恐縮するばかりだった。
大殿から戻ってきたチャングムを、ミン尚宮とチャンイにシンビ・チョドン・チョボクら医女も待ちかまえていた。「一体どういうことなの・・・ですか?」「いきなりひどすぎ・・・ますよ」一時的に最高尚宮を務めるだけだというチャングムに、その理由を尋ねるミン尚宮。それはミン尚宮だけでなく誰もが感じていた疑問だった。そんな彼女たちに、チャングムは「しなければならないことがあるから」と答える。
チャングムの「しなければならないこと」。それは水刺間の最高尚宮だけに伝えられる秘伝の書に母の無念を書き綴ることだった。「お母さん・・・一目会いたいです。一目だけでも・・・」チャングムは母との約束を全て果たした。それは同時に、彼女が彼女自身の人生を生きる日が来たということでもあった。
水刺間の様子を見回るチャングム。ふと彼女は一人だけ他のセンガッシから離れて食器を磨いている子を見つける。彼女はいつも先輩のセンガッシたちを質問攻めにして困らせるため、食器磨きを一人でやらされていたのだ。幼い頃のチャングムのように。チャングムはそのセンガッシの傍らに座り、料理や飾りつけはいつでも学べるが、食器を磨くことはそれ以上に重要なのだと諭す。
その話の終わらぬうちに、今度は厨房の中を走るセンガッシを見つけたチャングムはその子を注意する。「水刺間は料理をするところでしょう?そんな風に走ったら料理に埃が入りますよ!」今も宮中には将来チャングムのようになる可能性を秘めた少女たちが暮らしているのだ。
そのチャングムの耳に、懐かしい声が聞こえる。「随分偉そうじゃないの?」
ハン尚宮が昔と変わらぬ姿で水刺間に立っていた。「ハン尚宮様!私はもっといい子でしたよ!」「嘘おっしゃい。でもあなたは仕事をちゃんとやって来たから宮中に残してあげたの。そうでなければ追い出していたところよ。走り回っては竈を台無しにしてしまうし、木に登っては松の枝を折ってしまうし。ミョンイが何であの子はああ落ち着きがないのかと嘆いていたわ」「母がですか?」
「ええ。それから、ありがとうと伝えてくれと。もちろん私もよ。ありがとう、チャングム」
ハン尚宮の手を取ろうとした瞬間、ハン尚宮の姿は消え、そこにはいつもと変わらぬ水刺間の風景があるばかりだった。
チャングムは四阿へと走る。そして彼女は母とハン尚宮の柿酢が埋められた場所で泣き崩れる。
走っていく彼女の姿を見てついてきたミン・ジョンホはただ彼女を見守るのだった。
人気のない畑で語り合う二人。「父の死は私の責任だと、自分を責めて来ました。母が亡くなってからはなおさらでした。母を恋しく思う気持ちと、自分を責める気持ちとで、何もかも自分のせいだと思いました。恋しさと罪悪感とで、何もかも投げ出したくなった時もあります。私を攫って逃げたいと言って下さいましたね。それを望んでいたのは私の方です」
「思い出します。母と父と、私が一番幸せだった頃。世間から身を隠して暮らし、身分は低かったですが幸せでした」
チャングムはミン・ジョンホに身を預け、ミン・ジョンホはそっと彼女の肩を抱く。
「すべきこと」を終え、チャングムは再び医女に戻った。王は礼を述べに来たチャングムの顔をしげしげと見つめて尋ねる。
「もしやそちは・・・王位に着く前、まだ余が王宮の外に住んでいた頃の事だ。幼い子が酒を配達しに来た。その子は余が誰なのか知らず、尚宮に向かって女官になりたいと言った。あの時の子はもしやそちでは?」
王は数十年前のあの日のことを覚えていたのだ。「はい、左様でございます」あの少女が、自分の病だけでなく王宮に巣食う病根をも絶ったチャングムだったと知って王は喜ぶ。・・・だが、この日からチャングムは再び過酷な運命を背負うことになるのだった。


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