25〜28話


第25話 「母の敵」

ついに互いの素性を知ったチャングムとハン最高尚宮(チェゴサングン)。胸のうちに秘めていた思いを語り合い、喜びの涙にむせぶ。と同時にチャングムは、かつて自分と母ミョンイの命を狙った人物がチェ一族であることを知る。チャングムが隠していたミョンイの手紙も盗まれており、チェ尚宮(サングン)の手に渡ったと察したハン最高尚宮(チェゴサングン)。チャングムをチェ一族から守るため、先手を打つ。一方、内禁衛(ネグミ)に戻り、異国の密偵の動向を探るため地方に派遣されたチョンホ。しかしそれは表向きの処遇で、実際はトックの家に潜伏しオ・ギョモ一派の調査を続けていた。チャングムは亡き両親の無実を晴らす手助けをチョンホに頼む。その頃、中宗は療養のため宮中を出て温泉に行くことになり、水剌間(スラッカン)も同行することに。その湯治場はハン最高尚宮(チェゴサングン)が自ら推薦した場所で、チャングムにもゆかりのある場所だった。ハン最高尚宮(チェゴサングン)らの外出を知ったチェ尚宮(サングン)は、さっそく手を打つ。

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ついにミョンイの親友と娘として出会ったハン尚宮とチャングム。二人はこれまでそれと知らずに何度もミョンイのことを話していたことを知る。ハン尚宮の心の支えとなった親友、そして幼くして卓抜した能力を発揮していたチャングムを育てた母親。
ハン尚宮は、チャングムを連れてミョンイとの思い出の場所を巡る。二人で料理の練習をした場所。叱られた時一人で泣いていた場所。それはミョンイの娘に巡り会えた喜びと、ミョンイを救えなかった悔悟の入り交じった心の旅であった。
ハン尚宮はチャングムからミョンイの末期の様子を聞く。そして、ミョンイの死にチェ・パンスルが関わっていることを知る。また、チャングムはハン尚宮からミョンイが宮中を追われた事情を聞く。だが、ハン尚宮は詳しい事情を知らない。ただミョンイがチェ尚宮の不審な行動を気味尚宮に報告したことと、濡れ衣を着せられたことを知るのみだ。チャングムはそれを知るために母の遺した手紙を開封する決意を固める。
だが、既に手紙はチェ尚宮の手に渡っていた。手紙がないことに気づいて慌てるチャングムだったが、大っぴらに探す訳にも行かない。
そのころ、クミョンは叔父パンスルから密かに何かを受け取っていた・・・。
母の飲食抜記を盗んだ何者かが、手紙も持ち去ったのではないかと疑うチャングム。だが飲食抜記はハン尚宮がヨンノから取り上げていた。ということは手紙を盗んだのもヨンノに違いない。
ヨンノが誰かの指示に従って動いていると見たハン尚宮は、ヨンノを呼び出して問い詰めるが、ヨンノはあくまでも白を切り通す。これでは無駄に自分の動きを教えるだけに終わると悟ったハン尚宮は、ヨンノをそのまま倉に閉じこめる。背後にいるのがクミョンでありチェ尚宮であることは間違いないのだが、決め手となる証拠がない。
チェ尚宮が手紙を読んでしまったことは十中八九間違いない。だとすれば、チャングムが狙われることになる。ミョンイを殺してまで秘密を守ろうとしたチェ尚宮が、その秘密を知るかも知れないチャングム、そしてハン尚宮を放置するとは思えなかった。
ハン尚宮の食事にパンスルから受け取った薬らしきものを混ぜようとするクミョン。だが、彼女にはまだ迷いがあった。やっと意を決したその時、ハン尚宮からの呼び出しを受け、結局試みは失敗に終わる。だが、その顔には不安と同時に安堵の表情が浮かんでいた。
ハン尚宮は、チェ尚宮・クミョン・ヨンノの三人を太平館に送る。今ハン尚宮に可能な自衛策は、彼女たちを宮外に出してしまうことだけだった。チェ尚宮は女官長に抗議しようとするが、ハン尚宮は女官長に対しても手を打っていた。チェ尚宮の技量は醤庫にはもったいないと進言したのである。更にハン尚宮は三人が太平館から出ることも禁じてしまう。三人を見送りながら、ミン尚宮は思わず「最高尚宮様って恐いわね」とこぼす。チャンイはそれに同意するが、ヨンセンの意見は違っていた。
「何言ってるの。いい気味じゃない」
だが、これは一時的な対策にしかならない。この件に関して頼りになりそうなのはミン・ジョンホだけだが、彼は既に地方に派遣されてしまっている。ミン・ジョンホに頼んでチャングムの両親のことを調べて貰えばチェ一族を追いつめる証拠も得られる可能性があったのだが・・・。自分の身もさることながら、チャングムを案じるハン尚宮は、せめてミン・ジョンホがいつ都に戻るかだけでも確かめるようチャングムに言う。
チャングムは、地方に派遣されたはずのミン・ジョンホが、実は都に留まっていることをトックから聞き出す。彼はトックの家に身を隠していたのだ。
チャングムはミン・ジョンホに父が捕えられた後どうなったか、そして母の死の真相について調べて欲しいと頼む。だがミン・ジョンホは、父に関してはともかく、母の方は難しいと答える。明確な証拠が残っていないばかりでなく、捕盗庁の長官はオ・ギョモの一派であるし、チェ・パンスルに関わって利権を得ている者がどこまで広がっているかもわからないからだ。
ミン・ジョンホが身を隠して捜査を続けているのは他ならぬチェ・パンスルやオ・ギョモの不正を暴き出すためであり、十分な証拠さえ得られればチャングムの母の件も含めて全て弾劾することができる。彼はチャングムにそれまでもう少し待って欲しいと言うのであった。
「よく挫けずに強く生きて来ましたね」「強いのではなくて、他に生きる方法を知らなかったんです」「チャングムさん。これからは私にあなたの痛みを分かち合わせて下さい」・・・黙して目を伏せる二人。
家に戻ったチャングムに、トックの妻は心配げであった。ミン・ジョンホがチャングムに好意を寄せているのは傍目にも明らかだったからだ。「お前は女官だよ。女官なんだよ。忘れちゃ駄目だよ」
妻の目を盗んで持ち出した酒を飲もうとミン・ジョンホの部屋にやって来たトックは、ノリゲの持ち主がまだ見つからないことを知り、彼に替わって持ち主を探すと言い出す。だが、翌朝早々に酒を盗み飲みしたことが発覚し、ミン・ジョンホから預かったノリゲは妻に取り上げられてしまった。
ミン・ジョンホはチャングムの父について調べたが、当時の記録には多くの漏れがあり、手がかりを得ることはできなかった。だが、押送中に逃亡した者も多数おり、希望を捨てることはないと彼はチャングムを慰める。
ヨンセンとチャンイが太平館のクミョンとヨンノを訪ねて来る。彼女たちは王の療養のお供をして温泉に行くのだという。その話を聞いてヨンノは泣き出すが、クミョンはそのことをチェ尚宮に報告する。チェ尚宮とクミョンはこの機会を利用しようと考えたのだ。
チャングムが水刺間に戻ってくると、ハン尚宮から王の治療のために温泉に行くこと、そしてその場所はチャングムにとって嬉しい場所であることが告げられる。チャングムにとって嬉しい場所とは・・・。
王の湯治に向けて、水刺間も準備に追われていた。療養中の薬剤と食材を用意して持参しなければならないからだ。ただ、家鴨だけは現地調達することになっていた。・・・そんな中、チャンイは居残りを命じられ一人腐りきっていた。
現地に着き、家鴨を調達しに行くチャングムたち。その調達先はかつて錦鶏事件の際に力になってくれた鳥屋であった。ここの家鴨は精力がつくと評判なのだという。だが、物陰から彼女を見張る者がいたことにチャングムは気づかない。それはチェ・パンスルの配下、ピルトゥだった。
しばし政事を忘れて休養する王。だがこうしている間にも着々と陰謀は進行していた・・・。
思い切って休養を取った効果があったのか、王の食欲も戻り、家鴨の料理に舌鼓を打つ。
王の食事も終わり、ハン尚宮はチャングムを連れて外に出る。そしてこっそりその後を追うピルトゥ・・・。
ハン尚宮がチャングムを連れてやってきたのはミョンイの生家だった。チャングムにとって嬉しい場所とはこのことだったのだ。そしてハン尚宮は幼い日の思い出を語る。
その帰り道、ハン尚宮とチャングムはピルトゥたちに襲われそうになるが、ミン・ジョンホの部下によって救われる。ミン・ジョンホはハン尚宮たちが宮外に出たのを狙って来るかも知れないと、部下に命じて密かに護衛させていたのである。
一方、ミン尚宮とヨンセンはこっそり温泉に浸かりに来ていた。ヨンセンは温泉の湯を二つの壺に入れてお土産にしようとする。一つはチャンイに、もう一つはヨンノに。温泉の湯に足を浸しご機嫌のミン尚宮だったが、突然の物音に慌てて逃げ帰る。
ピルトゥから、ハン尚宮とチャングムを内禁衛の副従事官が護衛していると聞き、驚くチェ・パンスル。ミン・ジョンホ本人でないということは、内禁衛が組織的に動いているということだ。チェ尚宮も内禁衛から目を付けられていると悟り、愕然とする。
王はハン尚宮が作った家鴨の料理を気に入り、もう一度食べたいと望む。命じられるままに同じ料理を出すハン尚宮だったが・・・。
料理を食べてしばらくの後、王が倒れたとの報せが届く。一体王の身に何が起こったのだろうか。

第26話 「罠」

温泉から戻った中宗が高熱で倒れ、意識不明となった。原因を探し出せず処方の効果も出ないことから、侍医と医務官チョン・ユンスに誤診の疑いがかかる。チェ尚宮(サングン)はこれを好機に、兄パンスルを通じて医務官ユンスを抱込みにかかる。計画通りにことは進み、ハン最高尚宮(チェゴサングン)の身柄は拘束されチャングムも調査対象に。さらに湯治場のアヒルが硫黄を含む温泉水を飲んでいたことから、中宗に毒を盛ったとしてハン最高尚宮(チェゴサングン)の罪が問われることに。チャングムに頼まれたトックは、チョンホと一緒にアヒルの調査に出かける。チェ一族にとっては積年の不安を取り除く好機、また、オ・ギョモにとっては敵対する政治勢力を一掃する好機とあって、両者は固く結託。チョンホがハン尚宮(サングン)らと関わりがあることを知ったパンスルは、チョンホも一緒に陥れようと思い付くが……。

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王は高熱を発して意識不明になっていた。御医が早速診脈するが、原因を特定できない。御医の薦めによる湯治だっただけに、真っ先に誤診が疑われた。御医ユ・サンチョンと、食医(王の食事を医療面で管理する医者)チョン・ユンスは焦る。一刻も早く真因を突き止めて治療しなければ、王は勿論のこと、自分たちの命も危うい。
この報せを受けたチェ尚宮は、チェ・パンスルに宛てた一通の手紙をホンイに託す。この事件を利用して、ハン尚宮を失脚させようと、兄の協力を仰いだのである。料理に原因があったとなれば、かつてチュンジョチョナプタンを作ったカン・ドックが疑われたように、ハン尚宮も無事では済むまい。

チェ尚宮からの手紙を読んだチェ・パンスルはチョン・ユンスに接触し、力になりたいと申し出る。王が口にするのは薬だけではない。食事に原因があったことにすれば、責任を免れることができるとそそのかされ、チョン・ユンスの心は揺れ始める。

王の病状は一向に良くならない。それを心配して王妃も食事を摂らなくなった。だが、ハン尚宮は黙々と王妃のための食事を作る。そこにチョン・ユンスが軍官を引き連れてハン尚宮を呼びに来る。その物々しい雰囲気にチャングムたちは不安を覚えるのだが・・・。
ハン尚宮はオ・ギョモら高官たちから事情聴取を受ける。そして、湯治先に自分の生まれ故郷を推薦していたことと、食医に相談なく現地調達した家鴨を使っていたことからあらぬ嫌疑をかけられ、調査が終わるまで監察房に留置されることになる。
チョン・ユンスはチェ・パンスルに使嗾されるまま、ハン尚宮とチャングムに罪を着せようとしていた。彼がチャングムを連れて現地調達した食材を調べに行き、その際チェ・パンスルの息のかかった者が「チャングムに毒茸を売った」と証言する手はずになっていたのだ。
提調尚宮は太平館に出向いて、ハン尚宮に嫌疑がかけられていることと、再び水刺間をチェ尚宮に任せることを告げる。このままハン尚宮が失脚すればチェ尚宮は再び返り咲くことができるだろう。だがチェ尚宮はそれよりもまず自分が外出できるようにして欲しいと頼む。ハン尚宮の失脚を待つのではなく、自ら失脚させようというのだ。
ヨンセンから事情を聞いたカン・ドックは、今度は自分がチャングムを助けてみせると張り切るのだが、とりあえずチャングムを真似て同じ料理を作ってみることしか出来ない。折良くカン・ドックの家に戻ってきたミン・ジョンホはハン尚宮とチャングムに危機が迫っていることを知り、内禁衛(ネグミ)長官に連絡を取る。
その頃、食材の調査に向かったチョン・ユンス一行は予想だにしなかったものを発見していた。王の食事に使った家鴨は、硫黄分を大量に含んだ水を飲ませて飼育されていたのである。温泉地である以上、川の水に硫黄分が含まれるのは不思議なことではないし、村の人々がこの家鴨を食べて体を壊している訳でもないのだが、だからといって見過ごすことはできない。
チェ・パンスルはその話を聞いて安堵する。裏工作をするまでもなく、硫黄を飲んだ家鴨を食材として使ったハン尚宮が、責任を問われるのは避けられないからだ。「天の助けとはよく言ったものだ・・・」
ハン尚宮は、その家鴨を食べている村人たちは皆健康であり、王の病気の原因ではないと主張するが聞き入れる者はなかった。そしてついに義禁府に押送されてしまう。
押送される途中でチャングムに出会ったハン尚宮は、彼女に真相を調べるように言う。だが、チャングムを含む女官たちは全員宮外に出ることを禁じられてしまっている。
チャングムはかつて菜園で世話になった、チョン・ウンベクを頼る。かつて内医院にいた彼なら、きっと力になってくれるはずだ。だが、内医院に復帰するよう命じられたチョン・ウンベクは、それを拒んで出奔していた。残された菜園の官婢たちはどんなことでも手伝うと言ってくれるが、彼らの力の及ぶ問題ではなかった。
チャングムはカン・ドックに状況を説明し、家鴨に問題がないことを調べて欲しいと頼む。トックはミン・ジョンホとともに医者を連れて問題の村へと向かうのだが・・・。
ハン尚宮に疑いの目を向けさせようとするチェ一族の陰謀は成功した。だが、更にもう一歩踏み込んで、この事件を謀反にまで結びつければ完全に後顧の憂いを絶つことができる。だが、妙案はなかなか浮かばない。
そこで相談を受けたオ・ギョモが考えたのは、厳しい処罰を求め、自らが尋問に当たることができるよう申し立てをすることだった。
ハン尚宮がキミョサファの政変(巳卯士禍)で流罪となったチョ・グァンジョ(趙光祖)と通じていたことにすれば、ハン尚宮はもとより、チョ・グァンジョも大逆罪で死罪にすることができ、オ・ギョモにとっては一石二鳥となる。とはいえ、宮中の女官とチョ・グァンジョが直接通じていたことにするのは無理がある。間を繋ぐ人物としてチョ・グァンジョに心服している官員の中から、適当な者を選び出さねばならない。
医者を連れて家鴨を調査していたミン・ジョンホは、家鴨には全く問題がないことを突き止めていた。家鴨は体内で硫黄の毒素を分解することができるのだ。硫黄を含む水で飼育された家鴨の肉を食べれば、硫黄の薬効成分だけを摂取することになり、体に害があるどころか滋養強壮に高い効果がある。だが、オ・ギョモの動きは彼よりも一足早く、鳥屋は問答無用で捕えられてしまう。
更に、ミン・ジョンホを信じて待っていたチャングムまで大逆罪の疑いで捕えられることになってしまった。
チャングムが連れて行かれた場所には、ハン尚宮と鳥屋が拷問に傷ついた姿で引き据えられていた。ハン尚宮と鳥屋を執拗に尋問するオ・ギョモ。彼は何としても二人から嘘の自白を引き出そうとしていた。
事態の急速な悪化に堪りかねたミン・ジョンホは宮中に戻り、内禁衛将に状況を報告する。だが、チョ・グァンジョの問題まで絡んでくるとなると、下手に動けば宮中は大混乱に陥ることになる。内禁衛将はミン・ジョンホに宮中を早々に去るよう命じ、自らが事態の収拾に当たることにした。
だが、再び宮外に出る途中、ミン・ジョンホはその姿をパク・プギョムに目撃されてしまう。
御医ユ・サンチョンは、王に硫黄の解毒治療を続けていたが全く効果がなく、硫黄が原因ではないことを確信しつつあった。チョン・ユンスはそのことは口外せず、ただオ・ギョモに従うよう進言する。だが、いずれにせよ王の病気の真因を突き止め、治療しなければいずれ責任を取らされるのは避けられない。結局のところ、二人はチェ・パンスルに利用されただけだったのだ。
そこに内禁衛将が二人を訪ねてやって来る。彼は家鴨に解毒能力があることを知っており、内医院の診断を疑っていることを匂わせる。その場は何とかごまかせたものの、ユ・サンチョンとチョン・ユンスは却って退路を絶たれる恰好になってしまった。
そして内禁衛将は、チャングムを加えた三人に尋問を続けるオ・ギョモの元に現れ、尋問を中止するように言う。家鴨に害がないことを上層部に報告した彼は、家鴨と硫黄の関係が明らかになるまで尋問を中止せよとの命令を引き出していたのである。
焦るチョン・ユンスとパク・プギョムはチェ・パンスルに相談する。毒素を持った家鴨を王の食事に出したという事実だけが彼らの陰謀の拠り所だったが、それが根底から覆されつつあり、現に尋問が中止されてしまったとなっては、今度は彼らの立場が危うくなってしまう可能性すらある。
しかも、パク・プギョムは宮中でミン・ジョンホを見かけたという。チェ・パンスルはチャン執事に命じてミン・ジョンホの所在を調べさせる。
牢獄の中でお互いをいたわり合うハン尚宮とチャングムの元に、トックの妻が差し入れを持って現れる。ミン・ジョンホは女囚の牢に立ち入ることができないため、彼女に差し入れと手紙を託したのだ。それは、家鴨には問題がないと判明したことを報せ、尋問の際に何を訊かれた内容を知らせるよう依頼する手紙だった。手紙に返事を書くようにと筆と墨壺を差し出すトックの妻。だがそれは単なる筆と墨壺ではなかった。
それは以前チャングムがミン・ジョンホを助けた時になくした、父の形見のノリゲだったのだ。トックの妻はそのノリゲの持ち主を、以前からミン・ジョンホが探し続けていることをチャングムに教える。命の恩人が落として行ったものだから、と・・・。チャングムはあの時助けた男がミン・ジョンホだったことを知る。
ミン尚宮・ヨンセン・チャンイの三人は、女官長にハン尚宮とチャングムが釈放されるよう頼んで欲しいと願い出る。当然相手にされるはずもなく、すごすごと引き下がる三人。
ミン・ジョンホの部下たちは、チェ・パンスルとオ・ギョモが癒着している証拠と、成均館の学田に関する汚職の実態を掴んできていた。だが、その打ち合わせの現場をピルトゥに見られてしまう。ピルトゥはすぐさま報告に戻る。
ノリゲの持ち主がチャングムであるとの報せを持ってトックの妻が帰宅するが、既にミン・ジョンホと彼の部下たちは家を出た後だった。妻の話を聞き、驚くトック。
自分たちの思惑が外れ弱り切るチェ・パンスル。チェ尚宮は何としても押し通すべきだと言い張るが、既にハン尚宮の無実は半ば証明されてしまった。
しかし、ピルトゥの報告を聞き、チェ・パンスルは別の筋書きを思いつく。ミン・ジョンホは既にチェ・パンスルとオ・ギョモの関係についてかなりの事実を掴んでおり、いずれ野放しにはしておけない存在だ。チョ・グァンジョとハン尚宮を結びつける人物として、彼はミン・ジョンホを使おうとしていた。
いつもの料亭でパク・プギョムとそのことについて話し合おうとチェ・パンスルはチェ尚宮を連れて出かけるが、料亭に入るや、突如現れたクミョンが二人の前に立ちはだかる。「ミン・ジョンホ様だけは駄目です!」
ミン・ジョンホに対する自分の想いを告白し、ミン・ジョンホを助けてくれないなら全てを内禁衛で自白するとまで言うクミョン。最高尚宮になれなかったことよりも、ミョンイを死なせたことの方を辛く感じているチェ尚宮には、これから自分の姪が自分と同じような生き方をすることの意味が誰よりもよく解っていた。支えとなってくれる存在が宮中にいなければ、チェ一族の後継者として生きていくことなどできないというクミョンの言葉を、甘えと否定することは、彼女にはできなかった。
クミョンが去った後、それぞれの想いに沈む兄と妹。「まさかクミョンがなあ・・・。女とは恐ろしい」「・・・女官として生きる辛さは、兄上には解りません」「しかしどうするのだ。生かしておけば我々の邪魔になるぞ」
牢の中で語り合うハン尚宮とチャングム。「最高尚宮様。もうすぐここから出られます。気をしっかりお持ちになって下さい。ここから出たら、最高尚宮様に美味しいものをたくさん作って差し上げます。・・・母に出来なかったことを、最高尚宮様に全部して差し上げます」「そう。楽しみだわ」
その時、獄吏が現れて二人に告げる。「外に出ろ!」
二人はやっと牢を出ることができた。だが、これを素直に喜んで良いのだろうか・・・。

第27話 「偽りの自白」

アヒルの安全性を主張するチョンホの報告を受け、内禁衛(ネグミ)長主導でアヒル料理の検証が行なわれる。ハン最高尚宮(チェゴサングン)とチャングムは料理を再現し、試食が行なわれるが、しかし、クミョンの画策により試食をした人物が翌日高熱で倒れる。形勢は一気に逆転、内禁衛(ネグミ)に被害が及ぶことを恐れた内禁衛(ネグミ)長はチョンホを自宅の蔵に幽閉。パンスルはチョンホの部下をもう一人の標的に仕立て上げる。チョンホの部下、アヒルを売った店の主人、ハン最高尚宮(チェゴサングン)とチャングムは厳しい取調べをうける。拷問に耐えかねたアヒル屋の店主はついに偽りの自白をし、ハン最高尚宮(チェゴサングン)もそれに倣う。ハン最高尚宮(チェゴサングン)は自ら罪を被ることでチャングムを助けようとしていたのだった。生き延びて、いつか代わりに名誉を回復して欲しいと頼むハン最高尚宮(チェゴサングン)に、チャングムはもう独り残されるのは嫌だと訴える。
その頃、オ・ギョモは謀反人全員の死刑を中宗に申し出ていた……。

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内禁衛将の進言により、中殿は王が倒れた原因を調査させる。チェ・パンスルたちは焦る。元々家鴨には何の原因もないのだから、調査が行われればハン尚宮とチャングムは釈放されてしまう。元々中殿は二人に好意的であっただけに、嘘が発覚したらただでは済むまい。。
周章狼狽するチェ・パンスルとチェ尚宮。だがそんな二人に、クミョンは「一つ方法がございます」と自信ありげな表情で言うのだった。
ハン尚宮とチャングムは、オ・ギョモと内内禁衛将の目の前で、王に出した家鴨料理を再現するよう命じられる。その命令を聞いて、二人の表情はほころぶ。自分たちに罪がないことを証明する機会が与えられたのだ。だが、既にクミョンの企みは進行していた・・・。
水刺間は今回の調査に関係する者以外の立ち入りが禁じられ、厳重に警備されていた。そんな中、ヨンノはホンイに大妃から提調尚宮に宛てたの手紙を届けて欲しいと頼む。だが、女官たちでさえ出入りを禁じられているのに、ムスリ(下働きを担当する通いの奴婢)であるホンイが立ち入って良いはずがない。渋るホンイに、鮑料理を振る舞うヨンノ。王族しか食べることができないような料理に目がくらんだホンイは、ヨンノの頼みを引き受けてしまう。
その頃水刺間では、出来上がった家鴨料理を誰に食べさせるかが問題になっていた。完全に無関係な者でなければ、偽証する恐れがあるからだ。内禁衛長官は、提調尚宮への手紙を持ってきていたホンイを選ぶ。恐る恐る家鴨料理を食べるホンイであったが・・・。
牢に戻されたチャングムは、ハン尚宮に熱があることに気づき、牢番に薬を持ってきてくれるよう頼むが無視されてしまう。このまま長引けばハン尚宮の体が持たない。ハン尚宮は「明日には出られるから大丈夫。明日には治るわ」と言うのだが、チャングムにとってはとても安心していられる状況ではなかった。
一方、太平館では家鴨料理を食べたホンイが王と同じように高熱を発していた。実はヨンノがホンイに与えた鮑料理には毒薬が混入されていたのだ。当初ユン・マッケが家鴨料理を食べることになっていたが、ユン・マッケがチェ・パンスルやオ・ギョモに関係する人物であることが知られていた場合に備え、予め二人に同じものを食べさせていたのである。
硫黄を食べた家鴨は薬になるという主張はこれで覆された。ミン・ジョンホとともに家鴨を調べに行き、家鴨に害がないと主張した医者はオ・ギョモとチョン・ユンスから責め立てられる。しかも悪いことに、この医者はチョ・グァンジョを治療したことがあり、チョ・グァンジョと関わりの深い成均館にも親しい者が多かった。
医者は知り合いのミン・ジョンホから頼まれただけで、チョ・グァンジョとは何の関係もないと必死に弁明する。医者はミン・ジョンホが置かれている立場をよく理解していなかったのだ。ミン・ジョンホが地方に下ったのではなく、都で硫黄家鴨事件の調査に当たっていることをオ・ギョモに知られたら、ミン・ジョンホの身に危険が及ぶ。内禁衛将は医者を叱りつけ、他の部下のことを医者が勘違いしたことにするが、それをオ・ギョモが素直に信じるはずもなかった。
内禁衛将はミン・ジョンホを自宅に呼びつけ、そのまま蔵に監禁してしまう。王の信頼の篤い長官はともかく、内禁衛の若い官員の中にはチョ・グァンジョの支持者も多く、内禁衛がこの件から完全に手を引いてしまわなければ、彼らが「生け贄」にされてしまう可能性がある。これ以上ミン・ジョンホに調査を続けさせる訳には行かなかった。何より長官は、才気に溢れ将来を嘱望されるミン・ジョンホを失うことを恐れたのである。
パク・プギョムがミン・ジョンホを宮中で目撃したという話もあり、オ・ギョモはミン・ジョンホが本当に地方に派遣されているのかどうか怪しんでいた。彼はチェ・パンスルにミン・ジョンホのことをもっと調べてみるよう命じる。だが、チェ・パンスルとしてはクミョンの願いを入れてミン・ジョンホを見逃したなどと言える訳もなく、生け贄にするのに最適な人物が見つかったことを持ち出して話題を変えてしまうのだった。チェ・パンスルが見つけた生け贄とは、ミン・ジョンホに付き従っていた副官である。彼はチョ・グァンジョに師事していたことがあったのだ。
再び尋問のために呼び出されるハン尚宮とチャングム。そこには拷問に傷ついた副官の姿があった。彼はチョ・グァンジョと通じてハン尚宮に家鴨料理を出すよう指示した嫌疑をかけられていたのである。オ・ギョモの意図した通りの筋書きを作り出す用意は整った。・・・後は力ずくで自白を引き出すだけだ。
クミョンはチェ尚宮に、ハン尚宮とチャングムがどうなるのかを尋ねる。その問いにチェ尚宮は「死んでもらう」と答えるのだった。
「ミョンイを手にかけさせられたこと・・・今でも叔母様を恨む。でも、火種は必ず燃え上がると言った叔母様の言葉は正しかった。もう後には引けない。ミョンイ一人を完璧に消していれば、こうして二人を手にかける必要などなかった・・・!今回確実に始末しておかないと、次は三人、いえ、四人・・・考えるのも嫌だわ」それだけ言うと、チェ尚宮はクミョンを残して部屋を出る。
一人残されたクミョン。彼女はチェ尚宮の人生がどのようなものだったか、これから自分が歩むと決めた人生がどのようなものなのかを少しずつ悟り始めていた。
四人に対する厳しい取り調べが続く。そして、ついに鳥屋は苦痛に耐えきれず、オ・ギョモの望むままに偽りの自白をしてしまう。ハン尚宮が副官を通じて硫黄を飲ませるよう命令した、と。
この自白を得て、オ・ギョモは、副官とハン尚宮・チャングムの打ち首を決定する。それを聞いたハン尚宮はオ・ギョモに言う。「チャングムは何も知らないのでございます!これは、私だけが知っていたことです。チャングムは私が言った通りに家鴨を買ってきただけです」ハン尚宮はチャングムを救うため、一人で罪を被ろうとしていた。
自白したことで取り調べを中断され、牢に戻されたハン尚宮の元にチェ尚宮が訪れる。「・・・あなたね。あなたよ!」「違うわ」「あなたよ。ミョンイも、私も、チャングムまで・・・死に追いやったのは誰?あなたよ!」
「違うわ。あなたたちが自ら招いたこと。ミョンイも、あなたも、チャングムも、生き延びる機会はいくらでもあったはず。機会を奪ったのは私ではない。あなたたち自身よ。私に刃向かったのが罪なの。権力に従わなかったのも罪。・・・お願い。このまま静かに逝って。もう二度と、私にこんな真似をさせないように。あなたにとってミョンイが痛みなら、私にとっては恐れなの」
「チャングムだけは助けて。チャングムは何も知らないの。ミョンイの手紙も読んでいない。私も誰にも話していない。あのことは話していない。私は静かに死ぬわ。ミョンイとあなたのことを胸にしまって静かに逝くから、チャングムだけは、あの子だけは助けてちょうだい」
「あの時まだ生まれてもいないあの子が、知るはずもない。例え知っていても、あの子に何ができると言うの?・・・助けて!助けてちょうだい。チャングムだけは助けて・・・!」だが、チェ尚宮は無言でその場を去る。
牢に戻される途中のチャングムと出会うチェ尚宮。
その顔に一瞬浮かんだ感情を押し殺し、チェ尚宮は再び歩き出す。
牢に戻ったチャングムは、ハン尚宮に副官が取調中に絶命したことを話す。「最高尚宮様、何故あんなことを。何故ですか?あんなことを仰っては殺されてしまいます」「このままでは、二人とも死ぬ」「最高尚宮様と一緒に生きられないなら、最高尚宮様と一緒に死にます」「何を言っているのです。死ぬ道を選んだのは、何もお前のためだけではない。私とミョンイとお前、三人が生きるため、一人は生きなければ。お前一人だけでも、生き延びて欲しいの」
「チャングム、よく聞くのよ。チェ尚宮が私たちを殺そうとするのは、恐いから。私たちが火種だから。私が命を助けたミョンイは、死んでもお前を守り抜き、私に送った。だから、私もお前を守り抜く。そしていつか火種がまた赤く燃え上がり、再び名誉を回復してくれるのを信じて待っているわ。ミョンイも私も」
「いいえ、もう嫌です。そんな重荷を背負うのは嫌です。今度こそ、今度こそ最高尚宮様と一緒に、私もお供致します。今までずっと、私を置いて死んだ母を恨んで来ました。辛くてもう嫌です!これ以上は本当に、これ以上はもう辛すぎて耐えられません・・・!」
「しっかりしなさい!弱音を吐くなんて、チャングムらしくないわよ。チャングム、駄目よチャングム。ミョンイに顔向けできないわ。顔を合わせられない!それだけじゃないわ。チャングム、お前は私の子、娘よ。可愛い子を、死が待っている道に連れて行く母などいないわ」
「生きて。生き延びて。」ハン尚宮はチャングムに言う。かつてミョンイが幼いチャングムに言ったのと同じように。
オ・ギョモの主目的はチョ・グァンジョの処刑であり、ハン尚宮とチャングムに関しては奴婢身分に落とし、宮中に戻れぬようにするだけで事足りた。だが、チェ・パンスルにとってはそうは行かない。二人が生きている限り、チェ一族の安全は保証されないのだ。チェ・パンスルはパク・プギョムに何とか死罪にしてくれるよう頼む。「今まで黙っておりましたが、最高尚宮とチャングムは私と妹を脅かす存在なのです。この機会に・・・」「あ、あの・・・!」チェ尚宮は何か言おうとするのだが、言葉が続かない。パク・プギョムからチェ・パンスルの希望を聞いたオ・ギョモは二人の処分を決定する。それは「斬首」であった。
ミン・ジョンホは二人がこのまま殺されるのを見過ごすことができず、自分が彼らに狙われることになっても構わないから二人が死罪に処せられるのだけは阻止して欲しいと、内禁衛将に訴える。
王はやっと意識を取り戻す。早速オ・ギョモは今回の一件を上奏し、王の許可を得る。
ハン尚宮とチャングムに下された処分は死罪ではなく、済州島の奴婢とするというものだった。二人の刑が減ぜられたのは、内禁衛将のおかげだった。内禁衛長官はミン・ジョンホがつかんでいたチェ・パンスルとオ・ギョモの癒着の証拠を材料に、減刑を認めさせたのだ。
済州島に送られるハン尚宮とチャングムを見送る人々。カン・ドック夫妻、ミン尚宮、チャンイ、そして自分も連れて行ってくれと泣き叫ぶヨンセン。
チェ尚宮とクミョンもまた人混みに紛れて二人を見送っていた。
済州島への長い道のりを歩み始めるハン尚宮とチャングム。
それを見るクミョンの目には涙が浮かんでいた。
済物浦(チェムルポ)の渡しまで歩いて移動する途中、ついに倒れてしまうハン尚宮。チャングムは、彼女を背負って歩き始める。
チャングムの背中でハン尚宮はチャングムに語る。「チャングム。みんなお前を誤解しているわ。お前の良さは人より秀でていることではなく、何があっても怯まず、前へ進むことよ。皆が諦めてもお前だけは立ち上がる。お前は投げ出されても花を咲かせる花の種。だから人より辛いことが多いのよ」
「でもチャングム、私もお前に辛いことを頼まなければ。私が逝っても、お前は前へ進みなさい」
ハン尚宮はチャングムの背中で目に見えて弱っていく。ハン尚宮が眠ってしまわないように話しかけ続けるチャングム。「海老の和え物、覚えてますか?味を描く能力を目覚めさせるために、最高尚宮様が作らせた。作り方を教えて下さい。忘れてしまったんです」「まず海老を洗うの」「洗ったら次は?」「海老の背わたを取る・・・」「何で?」
「チャングム、宮中に戻っておくれ。チャングム・・・」「そんな風に呼ばないで下さい。母が亡くなった時のことを思い出します。最高尚宮様、最高尚宮様!」
「私は先に宮中に戻るわ。詫びの言葉は、お前が戻ってきたら言うわ。チャングム・・・」チャングムの願いも空しく、ハン尚宮はついに息絶えてしまう。
「こんなのあんまりです!何故私にこんな仕打ちを・・・みんなどうしてなの?私は悪いことなんか何もしていないのに!私にこれからどうしろって言うんですか?私もう頑張りません。今度こそ休みます。母は野苺を食べて逝ってくれたのに、最高尚宮様は薄情なお方です。絶対に、絶対に、尚宮様のいいつけは守りませんからね!」

第28話 「助け船」

ハン最高尚宮(チェゴサングン)を失ったチャングムは、一人、チェジュド(済州島)へ送られる。チョンホは幽閉されていた蔵から抜け出し、馬を走らせるも、チャングムを乗せた船はすでに岸を離れていた。ハン最高尚宮死去の知らせは宮中に伝わり、ヨンセンは自分もチェジュドに送ってほしいとクミョンに懇願。トックはチャングムを助けにチェジュドへ向かおうとするが、妻にたしなめられる。トックの妻はようやく姿をあらわしたチョンホに罵声を浴びせ、チャングムなら人を見捨てたりしない、と以前傷を負ったチョンホの介抱をした人物がチャングムであることを打ち明ける。チョンホは職を辞し、チェジュドへ向かう。そのころチェジュドでは、何度も脱走を試みるチャングムに担当の軍人クマンが手を焼いていた。チャングムは幽閉された蔵の中で、同じ奴婢の女性チャンドクと出会う。チャンドクはチャングムに脱走の手引きをする。

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ハン尚宮の亡骸を抱いて泣くチャングム。遺体を捨てようとする軍官に必死で抵抗する姿を見て、軍官たちも心を動かされる。
その頃、やっと戒めを解かれたミン・ジョンホは急ぎ宮中に戻る。そして二人が済州島に送られたことを知るや、手近な馬を駆って飛び出してしまう。
ハン尚宮の遺体はそのまま道端に埋められる。移動の時間を割いて埋葬してくれたのは軍官たちのせめてもの善意であったが、それでも師が罪人として道端に埋葬されるなど、チャングムには耐え難いことであった。ハン尚宮をこのような目にあわせた者たちを絶対に許さないと叫ぶチャングム。
ミン・ジョンホはついに一行に追いつくことができなかった。そして、一人思い詰めた表情で海の彼方を見つめる。
ハン尚宮の死は宮中にも伝えられる。ハン尚宮とチャングムを陥れた張本人であるチェ尚宮たちの想いは複雑だった。
一方、チャングムを追って済州島に行こうとする者もいた。一人はヨンセン。彼女はクミョンや提調尚宮に、チャングムと一緒に家鴨を買いに行った自分も大逆罪で済州島に送ってくれと頼み込むが相手にされない。
そしてもう一人はカン・ドック。妻が密かに溜め込んだ金を盗み出し、その金でチャングムの身柄を払い受けようとするが、妻に諫められて断念する。罪状が大逆罪であるだけに、政情が変らない限り滅多なことはできない。今はただ待つしかないのだ。
二人が話しているところにミン・ジョンホがやって来るが、彼が内禁衛将の手で監禁されていたことを知らないトックの妻は、彼をなじる。チャングムはかつて自分の立場が悪くなることも省みず彼の命を救ったというのに、彼はチャングムに謀反の疑いがかかるや姿をくらましてしまったと。その話を聞いて驚くミン・ジョンホ。彼はようやく自分が探し求めていた命の恩人がチャングムであったと知る。だが、もはや彼にはどうすることもできなかった。
独りぼっちになったチャングムを乗せた船は一路済州島へと向かって進む。
そしてチャングムと、彼女を愛する人々の思いをよそに、時が流れて行く。
あれからしばらくの後済州島には脱走を企てた罪で捕えられた女の奴婢の姿があった。言うまでもなくチャングムだ。済州島に送られてからのわずかの期間に、二度も脱走を図ったことに監視役の軍人パク・グマンも呆れるばかりであった。これ以上は島の役人にも隠しておけないと、脱走を諦めるよう頼むパク・グマンだったが、チャングムが諦める様子はない。
閉じこめられた倉の中でチャングムは見知らぬ女に出会い、島を抜け出す方法を教えられる。
その女は島の医女、チャンドクだった。チャングムは彼女に教えられた通り体に斑猫(はんみょう)を塗って水痘に罹患したと見せかけ、山中の納屋に隔離されることに成功する。
見張りが眠り込んだのを見計らい、チャングムは小屋を抜け出し海辺に設置された天幕へと向かう。そこでチャンドクの名を出せば島から抜け出せるはずだった。
だが、チャンドクの話は嘘だった。そこは海岸を警護する兵士たちの詰め所だったのである。慌てて逃げ出すチャングムと、彼女を追う軍官たち。
チャングムを追って済州島にやって来たミン・ジョンホ。市場の雑踏を抜け、岸壁に立った彼は、軍官に追われる一人の女婢の姿を見かける。それがチャングムであることを彼が知る由もなかった。
捕えられたチャングムはとうとう役人の前に引き出される。チャングムに罰が与えられるのは勿論だが、今度逃げ出すようなことがあれば、チャングムは牛島(ウド)の放牧場に送られ、パク・グマンも監視を怠った責任を問われることが告げられる。お人好しのパク・グマンにはとんだとばっちりだ。
島の役所を訪れたミン・ジョンホはチャングムに会おうとたまたま通りかかったパク・グマンの部下に彼女の居場所を尋ねる。そして、彼女が何度も逃亡を図り、鞭打ちの罰を受けていることを知る。チャングムのことが心配でいても立ってもいられないミン・ジョンホ。
鞭打たれたチャングムは放免され、同居している奴婢たちに支えられて役所を出る。その途中チャンドクの姿を見かけたチャングムは、彼女に何故自分を騙したのか問い詰める。
チャンドクはチャングムに、「奴婢は諦めることを覚えなければ生きていけない。それを早く悟らせるためだ」と答えるが、チャングムは「諦めないわ。私を諦めさせることなんて、誰にもできない」と言い切るのだった。
チャンドクは島で唯一の医女であり、両班たちでさえ彼女の顔色を伺わねばならない存在だった。そのことを他の奴婢たちから教えられ、チャングムは更に彼女への反感を募らせる。
ミン・ジョンホは済州島に向かう前に官職を辞していた。官員が大逆罪で処罰された宮女を追って職を辞したことが知られれば、オ・ギョモたちが放ってはおくまい。そのことを知った内禁衛将は、このことが公になる前に手を打ってしまおうと一計を案じる。
チョン尚宮とハン尚宮、そしてチャングムまでがいなくなった水刺間で、残されたミン尚宮とチャンイの立場は微妙なものになっていた。チェ尚宮はハン尚宮と親しかったミン尚宮の待遇をあからさまに悪くしていたのである。ミン尚宮はささやかな反抗を試みてはいたが、元々小心者だけに反抗していることすらチェ尚宮には伝わらない。結局、表面では従い内心では反抗するという、極めて小市民的な発想で自らを満足させるしかない。
ヨンセンは済州島に行くことも許されず、チャングムがよく来ていた四阿の傍らで涙にくれるばかりだ。カン・ドックに手紙を託そうとするが、トックも一日も早く忘れるようにと言うばかりで取り合ってくれない。・・・彼女はこれから自分をどんな運命が待ち受けているのか、まだ知らない。
全てがチョン尚宮就任以前の状態に戻ったと喜ぶオ・ギョモ。その裏側には使命と友情との狭間で苦しむチェ一族の女たちがいたのだが、そんなことに思いの及ぶ彼ではない。
ミン・ジョンホの自宅を訪れたクミョンは、彼が官職を捨てて出奔したことを知る。そして、彼がどこに向かったのかを悟り愕然とする。
度重なる逃亡のため、チャングムは屋外で仕事をする際には足枷をつけられるようになった。重い鉄製の足枷のため、チャングムの足首には酷い傷跡が残っている。
ミン・ジョンホはついにチャングムの居場所を探し当て、奴婢に金を渡してチャングムに宛てた手紙を届けさせる。だが、折悪しく彼女は馬の放牧場の仕事に向かった後だった。
パク・グマンはチャングムに足枷までつけるのは厳しすぎるのではないかと気にかけてはいたが、とりあえずは黙々と働く彼女を見て安心する。
だが、やはりパク・グマンはお人好しだった。チャングムは放牧場の馬を全て逃がしてしまったのだ。こっそり足枷を外していた彼女はその混乱に乗じて逃亡を図る。
林の中に逃げ込んだものの、大勢の兵士たちに追いかけられて逃げ切れるはずがない。あわや捕えられようかという時、彼女は放牧場まで追いかけて来たミン・ジョンホによって救われるのだった。
追っ手を避け、海辺の岩陰で休息を取る二人。チャングムは林の中で怪我をしたミン・ジョンホの手当をする。
「・・・暖かい手だ。やっとわかりました。気を失いかけてはいたが、あの手のぬくもりは憶えています。」
ミン・ジョンホはチャングムを助けられなかったことを悔い、彼女を済州島から脱走させるための船を用意して来ていた。だが、チャングムに会ってその決意が揺らぐ。ここで逃げ出せばチャングムは両親と同じように、一生人目を避けて隠れて暮らさなければならず、万一見つかれば死罪は免れない。自分がハン尚宮とチャングムが潔白であることを明らかにする以外、根本的な解決方法はないのだ。彼はその自分の思いをチャングムに明かす。そしてそれがいつであれ、逃げる時には必ず自分が側にいて力になるから、今は思い止まって欲しいと語る。
だがそんなミン・ジョンホにチャングムは、ここにいる訳にはいかないと言う。
「宮中に先に戻っている」と言い残して逝ったハン尚宮に会うために、何としてでも宮中に戻らなければならない。彼女はそう考えて何度も逃亡を図っていたのだ。
二人はもう言葉を交わすこともなく、ただ時が流れて行く。いつしか焚火も消え、朝が訪れようとしていた。
ミン・ジョンホが手配した船の船頭が迎えに現れ、チャングムは都に戻る船の待つ浜辺に向かって歩き出す。
だが、船頭に急かされるのにも構わず、チャングムは海辺の草原に座り込んでしまう。・・・そこにはハン尚宮がいた。
「チャングム、泣かないで。もう泣くのはお止しなさい。涙を拭いて歩き出すのよ。お前が生きていれば、私もミョンイも絶対に死にはしません。泣くのはお止し」
そしてチャングムは自分が今いるべき場所へと帰って行く。ミン・ジョンホと共に。
二人は捕えられ、取り調べを受ける。これで四度目の逃亡となるチャングムは牛島に送られることになる。だが、ミン・ジョンホは自ら戻ってきた彼女に対し、寛大な処置を求める。素性の知れぬ怪しい両班風の男に口出しをされ、判官は怒り出す。
 だが、ミン・ジョンホの部下から彼が新任の済州島水軍の武官であると伝えられると判官は驚き、非礼を詫びてミン・ジョンホの縄を解く。これが内禁衛将がミン・ジョンホを守るために講じた策だった。ミン・ジョンホはこの済州島で、誰憚ることなくチャングムを守ることができるようになったのだ。
判官はチャングムの罪を大目に見ることに同意しない。彼女が逃げ出す度に大騒ぎになっているし、献上すべき馬を逃がしてしまったことで莫大な損害も出ている。これではチャングムに仕事を与えることもできず、誰も預かろうとしないだろうと言うのである。
だが、自らチャングムに機会を与えるという者が現れる。「私にお任せ下さい」医女チャンドクだった。
自らチャングムを預かるというチャンドク。一体彼女の意図は・・・。


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