49〜52話
第49話 「つかの間の和み」 |
即位前、自分の元へ酒を配達に来た幼い娘がチャングムであることを思い出した中宗。チャングムとの縁を感じ、より信頼感を深くする。今一度チャングムに願いをたずねる中宗に、チャングムは活人署(ファリンソ)への異動を願い出る。活人署(ファリンソ)での初日、チョンホが仕事の前に立ち寄ってくれていた。しかし素っ気ないチョンホに、チャングムは不安を感じる。チャングムのいなくなった宮中では、水剌間(スラッカン)、内医院(ネイウォン)ともに立て直しを図っていた。水剌間(スラッカン)では新しい最高尚宮(チェゴサングン)が選ばれることに。そんな時、皇后がチャングムを宮中に呼び戻す。皇后は、皇太子の義弟となる自分の息子キョンウオン王子の行く末を案じていた。チャングムに助けを求める皇后。皇后の真意を知ったチャングムは思い悩み、活人署(ファリンソ)にチョンホを訪ねる。一方、皇后とチャングムの会話の一部を立ち聞きした中宗は、ある決断をする。
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自分が王位に着く時、重要な役割を果たしたあの酒屋の少女がチャングムだったと知って不思議な縁に驚き、そして喜んでいた。チャングムがいなければ、王の人生は全く違ったものになっていたかも知れない。しかも、彼女は王の命を救ってくれたのだ。 |
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王は更にチャングムの望む褒美を与えようとする。だが、チャングムの望みは意外なものだった。活人署(ファリンソ)に行かせて欲しいというのだ。活人署は貧しい人々を治療するための施設で、一日中病人がひっきりなしに訪れる過酷な職場だった。 |
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チャングムは活人署で更に多くの患者を診察し、医術を高めたいと考えていたのである。王は何故わざわざ苦労の多い活人署に行きたがるのか訝しむが、宮中にいる限り絶えず重圧の中で診脈しなければならないことも考慮し、暫くの間だけという条件をつけてチャングムの願いを聞き届ける。「もしそちが男なら・・・是が非でも余を担当する医官に登用するところだ」 |
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内医院では、オ・ギョモに代わって、イ・グァンヒが都提調となる。イ・グァンヒから医官たちに正式な辞令が出される。シン・イクピルは僉正に昇進し、御医として王を担当。チョン・ウンベクは判官に昇進し、シン・イクピルを補佐することとなった。だが、イ・グァンヒは必ずしも狐惑病事件の経緯を快く思ってはいなかった。結果的に王を治療することはできたものの、内医院の秩序を無視していたのは否定し難い事実なのだ。彼は今後修練の体系を厳しくすることを要求する。 |
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イ・グァンヒが退出した後、ミン・ジョンホは内医院の一同に許しを請う。内医院の秩序を乱した張本人は紛れもなく彼だからだ。だが、シン・イクピルは詫びる必要はないと彼に答える。「我々には教訓となり、刺激を受けました。今後一層精進致します」心なしか安心した表情を浮かべるミン・ジョンホ。 |
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だが、その和やかな雰囲気もチャングムの活人署に行くという言葉で一変してしまう。彼女ほど優秀な医女が活人署で働くなど、過去に例のないことだった。 |
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シン・イクピルとチョン・ウンベクは彼女が活人署に行こうと考えた理由を問い質す。目的を果たすため、特定の病だけを徹底的に調べ尽くしたことで彼女は功績を上げることができた。だが、医員は本来ありとあらゆる病に精通すべきであり、彼女はもっと多くの患者に接し、多くのことを学ぶべきだと考えていたのである。チャングムがそこまで医員としての道を究めようとしていると知り、シン・イクピルもチョン・ウンベクも彼女を快く送り出すことにする。 |
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医女仲間に挨拶をするチャングム。チャングムに厳しかったピソンも、医女の可能性を世に示してくれたと彼女を認める。 |
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そして、チャングムとシンビはお互いに努力して朝鮮一の医女になろうと誓い合う。かつてチャングムの母とハン尚宮がそうしたように。 |
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ヨンセンの出産のことをシンビに託し、チャングムはヨンセンに別れを告げる。やっと戻った宮中から再び出て行こうとするチャングムにヨンセンは不満げだが、チャングムの決意は固かった。 |
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中殿も必要な時は必ず駆けつけることを約束させ、チャングムが活人署に行くことを了承する。 |
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希望に満ちて新たな道を歩み出すチャングム。その道がこれまで歩いた道よりも遥かに険しいものであることを彼女はまだ知らない。そして、中殿との約束がどれほど重いものだったかも。 |
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チャングムが活人署に行くと聞き、トック夫妻も驚く。あれだけの功績があったチャングムが何故活人署などに送られるのかと二人は怒るが、トックの妻はチャングムが自分で行くと言い出したのではないかと気づく。長年母親代わりになってきた彼女はチャングムの性格をすっかり見抜いていたのである。一方、チャンドクは処方を決める権限のない内医院にいるよりも医術を深めることができると、活人署行きに賛成する。 |
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活人署への初出勤の朝。チャングムはそこで意外な人物を目にする。ミン・ジョンホが子供たちに凧を作ってやっていたのである。病気に勝った褒美だといって子供に凧を与える彼の姿を見て、チャングムは思わず微笑んでいた。 |
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だが、ミン・ジョンホの態度は妙に冷たい。「優れた医者とは、ただ病を治すだけでなく、病人に病と戦い病に打ち勝つ勇気を与える医者だといいます。私より立派なお医者様ですね」「そうですか?」「でも何故こんなに朝早く・・・」「仕事の前に寄っただけです。活人署がどんなところか見ておこうと思いまして」「それだけですか?」「他に何か理由が必要ですか?」 |
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そして、ミン・ジョンホはそのまま立ち去ってしまう。彼が何故突然こんな態度を取るようになったのか、チャングムには見当もつかなかった。 |
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活人署はまさに戦場だった。ひっきりなしに病人と怪我人が訪れ、休む暇もない。だが、チャングムは患者の血膿を口で吸い出し、高価な薬を使わずに治療する方法を教え、夜遅くまで患者と真摯に向き合い治療して行く。 |
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帰り道、口実を作ってミン・ジョンホの家を訪ねるチャングム。だが、彼の態度は相変わらず冷たい。子供たちに文字を教えに来て欲しいと頼むチャングムに、ミン・ジョンホは時間がある時に行くと答えるだけだ。本当は彼に毎日会いたくてそんなことを頼んだのだが、チャングムは本当の理由を言えずじまいだった。 |
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翌朝、二人はまた活人署で出会う。「あ・・・毎日来ていただけますか?」「何故?」「習うのに・・・間が空きすぎると・・・」その答えを聞いて踵を返すミン・ジョンホをチャングムは呼び止める。「あの、実は・・・!」 |
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「・・・毎日お会いしたいのです」 |
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「子供たちにですか?」 |
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「いいえ、私がお会いしたいので・・・」 |
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「最初からそう言えばいいでしょうに!」 |
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「え?では、私をからかわれたんですか!?」 |
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「違いますよ。今まで気をもませられっ放しだったから仕返しです!」 |
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破顔するミン・ジョンホにチャングムはやっと安心する。 |
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ミン・ジョンホは毎日活人署で子供たちに字を教えるようになった。宿題をして来なかった子を叩こうとするミン・ジョンホと、病気の子だからと庇うチャングム。忙しくはあったが、チャングムにとってはミン・ジョンホとまるで夫婦のように過ごす幸せな毎日だった。 |
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その頃、水刺間では新たな最高尚宮選びが始まっていた。現職の最高尚宮が着任からわずか三ヶ月で、高齢のため職務を遂行できなくなっていたからである。そして中殿の息子である慶源大君(キョンウォンテグン)の誕生祝いの料理で競合を行い、最も優秀だった者が最高尚宮に任命されることになる。チョン尚宮が始めた競合による最高尚宮選抜制度が復活したのである。その候補者の中にはミン尚宮も含まれていた。 |
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ヨンセンの前では彼女を安心させるために最高尚宮になる気はないと言ったものの、ミン尚宮は迷う。彼女は決して実力が劣っている訳でもなく、チョン尚宮の遺志を受け継ぐ唯一の尚宮でもあるのだ。 |
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慶源大君の誕生祝いが華やかに催される。いよいよ競合が始まったのだ。 |
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競合の結果、次代の最高尚宮が決定する。選ばれたのは何とミン尚宮だ。かつて、「手柄を立てる機会も与えられない」(第6話)と愚痴をこぼしてばかりいた彼女が、遂に最高尚宮になってしまったのである。 |
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最高尚宮になれたことは嬉しいものの、内心不安でたまらないミン尚宮。体調の優れない前最高尚宮に代わってすぐ王の食事を用意するよう命じた長番内侍にも、着任までしばらく時間をもらえないかなどと非常識なことを頼んでしまう有様だ。 |
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ミン尚宮はチャングムを頼って、トック夫妻の家にやって来る。トック夫妻もミン尚宮が最高尚宮になったという話には驚き、にわかには信用してくれない。やっと信用はしてもらえたものの、今度は二人に心配されてしまう。「確かにおめでたいことではありますが・・・この方に・・・」「勤まるのかね?」 |
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ますます不安になったミン尚宮は、帰宅したチャングムを見るなり抱きついて泣き出してしまう。 |
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チャングムはミン尚宮に、彼女が水刺間にいた頃ハン尚宮に学んでいた頃の覚え書きを渡し、ハン尚宮もかつてミン尚宮の料理を誉めていたことを教える。ミン尚宮は争いごとから常に距離を置き、ただ料理だけを一心に極めてきた。そのことが彼女の料理を着実に高めていたのである。その話を聞いてやっと気持ちを落ち着けるミン尚宮。チョン尚宮とハン尚宮の教えは、今ミン尚宮に受け継がれたのだ。チャングムもこの覚え書きが、それを活用できる人の手に渡ったことを喜ぶ。 |
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その喜びを味わう間もなく、シンビが中殿からの使いとしてやって来る。中殿からの呼び出しがかかったのだ。チャングムを巡る運命の渦は、彼女の意志とは関係なく再び動き出そうとしていた。 |
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初めて王の食事を出すミン尚宮。やはり王の前では緊張してしまい、言い訳がましいことばかり口にする彼女だったが、王の「美味である」という一言に加え、中殿はミン尚宮の作る味噌鍋を好んでいたという話を聞き、彼女はやっといつもの調子を取り戻す。「実は私だけの秘法がございまして・・・」「そうか、謙虚なだけではなく努力家なのは感心なことだ」「はい、謙虚さには自信がございます」呆れる長番内侍。 |
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久しぶりに中殿と対面し、心労の余り体調を崩しているという彼女を心配するチャングム。中殿と慶源大君の宮中での立場は微妙だった。明国から王位継承権を認められているのは東宮であり、東宮が死なない限り慶源大君が王位に着くことは有り得ない。それは即ち中殿が東宮に害意を抱いても不思議ではないということだ。王の病気を治療するために中殿が王宮の習いを次々と無視したことで、彼女に対する不信の目は以前よりも強くなってしまったのだ。中殿はこの子を産まなければ良かったとまで思い詰めていた。 |
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慶源大君の前でそのようなことを口にしてはいけないとたしなめるチャングムに中殿は沈痛な面持ちで話す。「今から教えねば。宮中はそういう所だと。王室の歴史が物語っているではないか。常に生きるか死ぬかなのだ。そちが王様をお救いしてからというもの、私に対するみなの視線がただならぬ。王様が生きていらっしゃる今でさえそうなのに、東宮様が王位に着けば・・・」既に慶源大君を呪った札まで発見されており、中殿は気の休まる時がないという。中殿がチャングムを呼び戻した理由はそこにあった。東宮の世話係になり、自分に従うよう命令する中殿。だがチャングムにはその言葉の意味が解らない。 |
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中宮殿から下がる途中、至密尚宮はチャングムを部屋に呼び、中殿の意図を伝える。東宮が王位に着けば、中殿も慶源大君も今の地位を失う。しかも、今の段階で呪い札が出てくるようでは、東宮が王位に着くことなく没した時のことを考えて事前に慶源大君を亡き者としようとしている者もいるに違いない。だが、東宮が死に、慶源大君が生き残れば話は別だ。東宮は生まれつき厥心痛(狭心症)を患っている。遠からず死ぬ運命なのだ。もしチャングムが医官にも悟られず東宮を暗殺することができれば・・・。 |
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チャングムは悟る。チェ一族が王宮を蝕んでいたのではなかった。王宮という閉ざされた世界がチェ一族を生み出したのだ。チェ一族が滅んだ今、チャングムがその役割を担わされようとしていた。 |
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中殿の指示により、チャングムは東宮付きの医女に任命された。王と中殿に加え、大妃や東宮の妻が見守る中、チョン・ウンベクとともに診察に当たるチャングム。病気の息子を心配する義理の母。そして孫を見守る祖母。一見暖かい家族の姿の裏には殺意が渦巻いていた。 |
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重圧に耐えかねたチャングムは活人署にミン・ジョンホを訪ねる。活人署での日々が懐かしいというチャングムにミン・ジョンホは言う。「私も宮中よりここがいい。子供たちと一緒に過ごす時間はとても楽しいです。・・・いいことがある。田舎で私と一緒に書堂(ソダン)と小さな薬房を開きませんか?一つ屋根の下で」 |
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だがチャングムはその言葉を聞いて泣き出してしまう。「おや?・・・嫌ですか?泣きたいほど?」 |
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「ええ、嫌です!小さい薬房は嫌です。大きくして下さい!患者さんを大勢診られるように!」涙の理由をそう誤魔化した彼女の胸にはある決意が宿りつつあった。 |
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王と中殿、そして孝恵公主の目の前で東宮を治療するチャングム。「中殿の配慮でそちが世話をしてくれて、余は安心しておる。男なら大殿の医官にしたいが・・・誠に残念だ」だが中殿の表情は険しい。 |
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二人きりで話す中殿とチャングム。「苦しいであろう。私もそちに話すまではとても辛い思いをした。でもやっておくれ。辛いことだからこそそちに話したのだ。そちには私に返さねばならぬ借りがある。返しておくれ。それが世の常だ。今回はそちが助けておくれ。さもなければ・・・そなたを失いたくない」 |
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チャングムはミン・ジョンホとともに市場に行き、彼にノリゲをねだる。そのノリゲのお返しにとチャングムがミン・ジョンホに渡したのは父の形見のノリゲだった。「これは・・・お父上の形見でしょう」「私が持っているもので、一番大切なものを差し上げます。これには幼い頃の思い出、ナウリと出会った思い出が詰まっています。受け取って下さい」 |
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その夜、チャングムはまんじりともせず過ごす。中殿がいなければ、復讐を遂げることなく命を落としていたはずだ。だが、その代償がチェ尚宮と同じ存在になることだったとは・・・。ミン・ジョンホに「一番大切なもの」を渡し、チャングムは意を決する。 |
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チャングムは中殿の頼みをはっきりと断る。・・・自分の命と引き替えに。だが、チャングムを死なせたくない中殿は、医女ではなく自分の至密尚宮として側にいるよう命じるのだった。いつ命を落とすことになるかわからないこの王宮の中で、中殿が頼る相手はチャングムしかいなかったのだ。 |
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だが、その会話はたまたま中宮殿を訪れた王に聞かれていた。何とかその場を取り繕おうとする中殿だったが、既に手遅れだった。 |
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かつて王はオ・ギョモらを処罰することで、東宮と中殿の板挟みになることを悩んでいた(第46話)。まさにその通りのことが起こりつつあるのだ。父として、夫として、王は決断しなければならなかった。 |
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王はチャングムをヨンセンの居所に呼び出し、中殿がチャングムに何を頼んだのか厳しい口調で尋ねる。「殿下・・・お答えできません!どうか私を殺して下さいませ!どうか、いっそのこと私の命をお取り下さいませ!」 |
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チャングムはミン・ジョンホの姿を求めて走る。だが、二人は入れ違いになってしまい、なかなか会うことができない。 |
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彼女がやっとミン・ジョンホの姿を見つけた時には、すっかり日が暮れていた。「そばにいると仰ったのに!どこにいらしたんですか?いつもそばにいると仰ったのに!どこにいらしたんですか?ずっと探していたんですよ」 |
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「私を攫って逃げたいと仰いましたよね?どうか、そうして下さい!攫って逃げて下さい。お願いします!お願いです!訳は何も聞かずに・・・」 |
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チャングムの話を聞いたミン・ジョンホは、官職を捨て彼女と共に逃げようと決める。 |
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だが、ミン・ジョンホが大殿に伺候した時、そこでは大変な事件が起こっていた。王がチャングムを御医にせよと言い出したのである。チャングムを救う決意をしたのはミン・ジョンホだけではなかったのだ。 |
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その頃、チャングムは書き置きを残してトック夫妻の家を出ていた。 |
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果たしてミン・ジョンホはチャングムを救うことができるのだろうか? |