第44話 「投獄」 |
皇后に命じられ、中宗の病気の真相を突き止めることになったチャングム。内侍府(ネシブ)の長官に連れられて行った菜園には、チョンホとチャンドクが待っていた。すでに菜園には中宗と同じく傷寒症を繰り返している患者が集められており、チャングムは早速、治療を始める。一方、宮中では相変わらず水剌間(スラッカン)と内医院(ネイウォン)が責任のなすりあい。チョンホの提案でウンベク、イクピルも中宗の脈診をすることに。これ以上チェ一族との対立を長引かせたくないユンスだが、ヨリはさらにクミョンを陥れる細工をする。そのためパンスルの屋敷にまで捜査が及ぶことになる。ヨリは状況を報告するため、ある家を訪れる。チャングムはシンビに頼み、以前王殿に仕えていたウンビから話を聞きだす。ささいな症状のため中宗の病状日誌に書かれていない事柄が、実は病状に関与しているのではないか、とチャングムは推測していたのだ。ウンビとシンビの会話を偶然耳にしたユンスもあることに思い当たるのだった。窮地に陥っているチェ一族の頼みの綱はオ・ギョモ。しかしオ・ギョモ自身も保身を図り、クミョンにつづき、チェ女官長、チェ・パンスルも投獄されることになる。
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長番内侍はチャングムを茶斎軒(タジェホン)に連れて行く。そこに今回の一件を計画した人物がいるという。 |
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雪のちらつく茶斎軒でチャングムと長番内侍を出迎えたのはミン・ジョンホとチャンドクだった。チャングムの身に危険が迫っていると知ったミン・ジョンホは、チェ尚宮に先んじて長番内侍と接触し、彼を通じて中殿に相談を持ちかけていたのだ。チャングムが殺されたと見せかけて茶斎軒に身を隠させ、王の病気の原因究明に専念させるという彼らの計画は見事に成功した。そして、茶斎軒には既に病舎が造られており、万全の体制が整えられていた。 |
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だが、王の病気が何か明かすことができなければ、チャングムはもとより、この計画を中殿に進言したミン・ジョンホも無事では済むまい。そのことを心配するチャンドクだったが、チャングムとミン・ジョンホは、これがオ・ギョモとチェ一族の陰謀を暴く最後の機会だからこそ何としても事実を明かさなければならないのだと考えていた。 |
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茶斎軒に造られた病舎には王と同じく頻繁に傷寒症にかかる患者が10人ほど集められていた。彼らの病状を丹念に調べて行く以外、手がかりを得る方法はない。王の病簿日誌の写しだけをたよりに、チャングムとチャンドクはその気が遠くなるような作業に着手するのだった。 |
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そして、二人を茶斎軒に残して内医院に戻ったミン・ジョンホは、チャングムが済州島に戻したことにして、無用な詮索を封じてしまう。 |
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チョン・ユンスの診断に間違いがないことを証明するため、チョン・ウンベクとシン・イクピルも王を診脈することを許される。二人の診断はやはり傷寒症であり、疑わしい点は無かった。だが、シン・イクピルは病簿日誌に記録されていない些細な症状に手がかりが隠されているのではないかと考えていた。王は以前から病気がちであったため、細かい点まで記録されなかった可能性は十分ある。 |
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チョン・ユンスはチェ尚宮との関係悪化を懸念し、料理が原因でないことも証明して問題をうやむやにしたいとヨリに話す。だがその話を聞いたヨリは複雑な表情を浮かべる。 |
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チョン・ユンスと別れた後、ヨリは一人物陰で年嵩の尚宮から何かを受け取ると、それを持って水刺間に向かう。そして、人目を避けるようにしてクミョンの調味料入れの在処を窺うのだった。 |
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内侍府は本格的に水刺間の調査に乗り出す。厨房の隅々まで調べ、有害な食材を探す内侍たち。一方、内禁衛は水刺間で使われる食材を一手に引き受けているチェ・パンスル商団を調査し、チェ・パンスルの屋敷までが調べられることになる。ミン・ジョンホはこの機会に乗じて帳簿類なども押収させ、徹底的にチェ・パンスルの身辺を捜索しようと考えたのだ。 |
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水刺間の倉庫とチェ・パンスルの屋敷から疑わしい食材が押収される。だが、それぞれにもっともな理由があって置かれていたものばかりで、決定的な証拠となるようなものは何も無かった。元々食事に毒など混ぜていないのだから、いくら疑われたところで証拠が出るはずがない。落ち着き払った様子のチェ尚宮。 |
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クミョンが使っていた調味料入れに入っていた粉末の匂いを嗅いだシン・イクピルとチョン・ウンベクは顔色を変える。それはチェ一族に代々伝わる薬味で、最高尚宮だけが使ってきたものだった。秘伝ゆえ材料は明かせないが、害のあるものではないというチェ尚宮にチョン・ウンベクは言う。「笑い茸が体に害がないとは思えません」金剛山の松茸を使って作ったはずの粉末は、いつの間にか笑い茸の粉末にすり替えられていた。 |
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「これは罠です!誰かがこっそり器に入れたのでしょう!」何者かの陰謀だと訴えるチェ尚宮だったが、笑い茸の粉末が決定的な証拠として扱われるのは避けようがない。 |
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激昂するチェ尚宮を冷ややかに見つめるヨリ・・・ |
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茶斎軒で患者たちを診察し続けていたチャングムは、患者の中に傷寒症には見られない妙な症状が出ている者がいることに気づく。鍼を打った跡が腫れて膿んでいたのだ。病簿日誌によると王も小さな傷が膿むことがあったという。王の病気と何か関係があるのだろうか・・・。 |
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ミン・ジョンホは茶斎軒を訪れ、チェ・パンスルの屋敷で押収した胡椒をチャングムに見せる。それは珍しい倭国の胡椒だった。以前副官が押収した地図といい、今回の胡椒といい、チェ・パンスルと倭国には何らかの繋がりがあるのだ。 |
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チャングムはミン・ジョンホを通じてシンビにウンビが王を担当していた頃のことを確認させる。チャングムが睨んだ通り、王は小さな傷が膿むことが頻繁にあり、皮膚病も多かったという。個々の症状が軽く、頻繁に起こっていたため、病簿日誌には記録されなかったのだ。 |
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そのウンビの話を偶然耳にしたチョン・ユンスは、何か心あたりがあるのか書庫へと急ぐ。だが、その途中でチェ・パンスルに出くわしてしまう。何故自分たちを陥れようとするのかと詰め寄るチェ・パンスルだったが、チョン・ユンスには全く心当たりがない。 |
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チェ尚宮と話し合うチェ・パンスル。チェ一族にもしものことがあれば、チョン・ユンスも一蓮托生なのだ。自ら首を絞めるような真似をしたとは考えにくい。心当たりがないというのも嘘ではあるまい。だが、笑い茸はかつて彼らがハン尚宮を陥れようと用意していたものだ。明らかにチェ一族に害意を持つ何者かの陰謀なのだ。 |
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誰がチェ一族を罠にかけようとしているのか判らぬまま、チェ・パンスルはオ・ギョモを頼る。だが、左賛成やミン・ジョンホが動いている上、中殿も目を光らせている。笑い茸という証拠品も出てしまった以上、オ・ギョモもうかつに手出しをすることができない。チェ・パンスルはオ・ギョモに金を渡し、イ・グァンヒ左議政(チャイジョン
議政府の高官。オ・ギョモは右議政である。左議政も右議政も同じく正一品だが、左議政の方が格が高い)に会ってくれるよう頼む。大妃に対して影響力を持っているイ・グァンヒを通じて、中殿を牽制してもらおうというのである。 |
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イ・グァンヒの居宅に向かう途中、オ・ギョモに宛てた手紙を届けに来た者があった。その手紙を読んだオ・ギョモは顔色を変え、急遽行き先を変更するのだった。 |
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オ・ギョモが案内された屋敷には前任の提調尚宮パク・ヨンシンと、スバル尚宮、そしてヨリがいた。ヨリは幼い頃両親を失い、姉弟たちとともにパク・ヨンシンに救われた身の上だったのである。その恩に報いるため、ヨリはチェ一族に服従するふりをして機会を窺っていたのだ。チャングムを狙ったのも、そうすればチェ尚宮の信頼を得られるというパク・ヨンシンの言葉に従ってのことだった。背後にパク・ヨンシンがいたからこそ、チェ一族を陥れる道具としてハン尚宮の時と同じ笑い茸が使われたのである。ここでこの人が現われて驚いた人も多かったのではないかと思うが、出てきたこと以上に孤児を助けるような面が彼女にあったのが意外である。 |
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パク・ヨンシンは、チェ・パンスル商団を滅ぼしてしまえば、彼らが得ていた利益も全て得ることができるとオ・ギョモをそそのかす。そただ事の成り行きを黙って見ていれば、チェ一族は滅び去り、オ・ギョモは莫大な利益を得る。その対価としてパク・ヨンシンが望んだのは再び提調尚宮の座につくことだけだった。結局オ・ギョモはイ・グァンヒを訪ねるのを中止してしまう。彼はチェ一族を見捨てたのである。 |
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ついにクミョンは投獄される。チェ尚宮にはチョン・ユンスが保身のために企んだことではないかという疑念を捨てることができなかった。 |
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シンビがウンビたちから聞き出して来た情報から、チャングムは小さな傷に過敏な反応を示す二人の患者が、王と同じ病気に罹患しているとの確信を得る。 |
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だが、シンビとウンビの会話を立ち聞きしたチョン・ユンスも同じ手がかりから王の病気の正体に迫りつつあった。チェ尚宮との関係が決定的に悪化する前に、内医院と水刺間双方の面目を保てる解決策を見つけようと焦るチョン・ユンス。 |
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そんな彼にヨリは秘伝の薬味と笑い茸の粉末を入れ替えたのが自分であることを打ち明ける。そしてオ・ギョモが心変わりしたことを伝え、心配せず王の治療法を見つけて欲しいと言う。チョン・ユンスは言葉を失う。保身と目先の欲から生まれた欺瞞は、いつの間にか彼自身を恐るべき暗闘のただ中に追い込んでいたのだ。 |
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オ・ギョモはチェ一族を裏切ったことなどおくびにも出さず、イ・グァンヒへの働きかけが失敗に終わったことをチェ尚宮に話す。何とかしてクミョンは助けると口では言うものの、もとより彼にそのつもりはない。オ・ギョモ以外に頼る者のないチェ尚宮は気をもむばかりだった。 |
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ミン・ジョンホはチェ・パンスル商団から押収した地図の妙な印が何を意味するのか調べるため、部下を印のつけられた場所へと派遣する。 |
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オ・ギョモを尾行していたトックは、彼がパク・ヨンシンと密会しているのを見つけ、ミン・ジョンホに報告する。オ・ギョモを糾弾する証拠が見つかればきっとチャングムは済州島から戻ってくるとトック夫婦は信じているのだ。だが、単に前提調尚宮と会っていたというだけではオ・ギョモを追い込むことはまだできない。ミン・ジョンホのその言葉に落胆するトック夫婦。 |
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彼らにはオ・ギョモとパク・ヨンシンの密会が何を意味するのかすら知る術がなく、あれこれと想像してみることしかできない。だが、かつてチャングムが済州島に追放された時と違い、ミン・ジョンホが都に残って平然としているのだから大丈夫なのだろうと、幾分は安心するのだった。遠からず、チャングムは帰ってくるだろう。 |
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そしてその翌日、チェ・パンスル商団を見張っていたトックの妻の眼前で、遂にチェ・パンスルが捕えられる。 |
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更にチェ尚宮も捕えられ、義禁府に押送される。 |
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三人が拷問されるのを見て後ろ盾を失う恐怖に駆られたヨンノはヨンセンに頼ろうとするが、ヨンセンが聞き入れるはずもない。必死にヨンセンにすがるうち、ヨンノはついチャングムが病簿日誌を盗んだ罪を問われ、屍躯門(シグムン
現在の光化門。死体を運び出す時に使用された。NHK版では「屍の門」になっている)から宮外に連れ出されたと口走る。 |
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チャングムは済州島に行っていると信じていたヨンセンは驚きの余り具合が悪くなってしまう。折良く戻ってきたミン尚宮とチャンイに責め立てられるヨンノ。かつてチョン尚宮が宮中を追われた時、ヨンセンのことを「糸の切れた凧」と馬鹿にしたヨンノ自身が今は「糸の切れた凧」なのだ。 |
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治療のために呼ばれたシンビは、ミン尚宮とチャンイに水と湯を用意させ、ヨンセンと二人きりになったのを見計らってチャングムがどこにいるのかを教える。途端に満面の笑みを浮かべて元気を取り戻すヨンセンであった。 |
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昼夜を分かたず王と同じ病にかかった患者の治療に当たっていたチャングムとチャンドクはついに効果のある治療法を発見する。 |
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だが、チェ尚宮とクミョンが捕えられた今、チャングムは再び選択しなければならなかった。このまましばらくの間治療法を伏せておけば、チェ尚宮とクミョンは処刑されるのだ。 |
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チェ尚宮とクミョンが繋がれた牢にチャングムが姿を見せる。「チャングム!お前の仕業だね!」「ハン尚宮様と私がいた牢に入ることになるなんて、夢にも思わなかったことでしょう。しかも、私たちと全く同じ容疑をかけられて」「お前が仕掛けた罠だね。笑い茸を入れたのはお前だったんだ」「私が入れたとお思いですか?私はそんな小細工はしません。そのような幼稚な真似は致しません」 |
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「何?幼稚な真似?立場が逆になったからと、いい気になるんじゃないよ!いい?私はハン尚宮とは違う。誰も私に手出しなどできぬ」 |
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「最後の機会を差し上げましょう。今までの罪を償い、人間として正しく生きる機会です。おのれの罪を悔い、ハン尚宮様に謝罪なさって下さい。涙を流し、心から許しを請うのです。反省なさったらいかがですか?人間なら、人の心があるなら、そうなさるべきです」「嫌よ。反省などしない。このまま死ねというなら死ぬ。何と罵られようが、お前に謝罪などしない。赦しを請うこともしない」 |
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牢を立ち去るチャングム。「・・・そうよ、私はお前の赦しなど請わない。もしも赦しを請う人がいるとしたら、それはあのお方だけ」チャングムにクミョンの心の声は届かない。 |
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チャングムはまだ迷っていた。このままチェ尚宮とクミョンが死んだとしても、ハン尚宮の無念を晴らすことはできない。そのためには結果的に二人を救うことになったとしても、真実を明かすしかないのだ。だが、それは余りに辛い決断だった。 |
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パク・ヨンシンはオ・ギョモにチェ尚宮の行状を記した証拠文書を見せる。彼女が取り調べを受けるように仕向け、それに時機を合わせてこの証拠を義禁府に提出すれば、チェ一族は滅びることになる。 |
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まだ自分たちが見捨てられたと知らないチェ尚宮は、ユン・マッケを通じてオ・ギョモとの接触を図っていたが、居留守を使われて全く接触することができずにいた。状況が全く掴めないまま、チェ尚宮はオ・ギョモに宛てた手紙をユン・マッケに託す。クミョンの表情に不安の色が浮かぶ。 |
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パク・ヨンシンが用意した証拠文書はパク・プギョムの手に渡り、チェ尚宮たち三人の運命はもはや風前の灯火だった。 |
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繰り返される拷問に半死半生となっても、三人は自分たちの無実とチョン・ユンスの陰謀を訴え続ける。ここで行われている拷問は、足首と膝を揃えてきつく縛り、その間に挟んだ丸太を外側に向けてこじるというものである。激痛を与えるだけでなく、歩行不能にして逃亡を防ぐという効果があったようだ。 |
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だが、チャングムを伴って現われたミン・ジョンホが三人への拷問を止めさせる。 |
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ミン・ジョンホを見つめるクミョン。・・・彼の傍らにはチャングムがいる。 |
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そして、チャングムは取り調べ官に告げる。「料理には何の問題もございません。誤診でございます」 |
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チャングムの表情には憐憫も同情もなかった。彼女がここに来たのは三人を救うためではなく、彼らが本当に受けるべき罰を受けさせるためなのだから。 |